「鹿が食べて死なない」買い物袋 奈良の企業が開発 ポリ袋誤食相次ぎ
毎日新聞 2020年5月31日 09時56分(最終更新 5月31日 13時25分)
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「鹿紙」を開発した中村さん、松川さん、小川さん(左から)。ロゴは大豆インクで印刷、「人間のお菓子を食べさせないで」と3カ国語のメッセージも添えた=奈良市田原本町のナカムラで、高橋智子撮影

 奈良公園周辺(奈良市)に生息する国の天然記念物「奈良の鹿」が、人が捨てたポリ袋を食べて死ぬケースが多発していることを受け、奈良県内の企業3社が鹿が食べても害が少ない紙「鹿紙(しかがみ)」を共同開発した。この紙を使ってA4サイズが入る紙袋を作り、土産物袋などでの幅広い活用を呼びかけている。

 「奈良の鹿愛護会」によると、鹿は「袋の中に食べ物がある」と思ってポリ袋を食べてしまうといい、胃に詰まって栄養吸収を妨げられた結果、死に至るケースが相次いでいる。今年3月までの約1年間に原因不明で死んだ25頭中、16頭の胃からポリ袋の塊を検出。うち4頭はポリ袋が直接の死因だった。会ではSNSなどを通じて観光客らにポリ袋を捨てないよう呼びかけているが、被害は後を絶たない。

 こうした状況を知った化粧品企画業「ならイズム」(田原本町)の松川英朗代表(42)が「ものづくりの立場から鹿を守る取り組みを発信できないか」と提案。その思いに、紙器製造業「ナカムラ」(同町)の中村孝士代表(48)と印刷デザイン業「文洋堂」(桜井市)の小川清代表(50)が応え、鹿紙が完成した。

 「鹿目線」でのものづくりは試行錯誤の連続だったという。不純物が少ない牛乳パックの再生パルプに「鹿せんべい」の材料でもある米ぬかを配合したが、米ぬかの油分が邪魔して紙が固まらず、3度作り直しに。また、「鹿が口にした時おいしくないだろう」と通常の印刷で施す摩擦防止の薬品加工を省いたため、紙粉が機械に詰まるトラブルが頻発。印刷会社から追加注文を断られたこともあった。

 日本食品分析センターで安全性が証明され、発案から8カ月でようやく完成したが、まだ課題は残る。紙袋の卸値は1枚約100円と平均的な土産物袋の3倍以上で、土産物店などで使ってもらうにはコストが高すぎるのだ。松川さんらは、協賛企業を募って企業ロゴを印刷するなど、広く採用してもらえる方策を模索している。一方、奈良市観光協会が鹿紙の導入を決めるなど、取り組みへの共感の輪も広がりつつある。

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