新型コロナウイルスの影響で休校が続いていた東京都や近郊の学校が6月1日から再開する。教員たちは感染予防の準備に追われつつ、学習の遅れを取り戻す難題とも向き合っている。 (土門哲雄)
 
 「長かった。待ち遠しかった」。東京都豊島区立仰高(ぎょうこう)小学校の新井裕校長は、ほっとした表情を見せる。児童は一日から学年ごとに一日おきに登校する。二週目からは毎日になるが、六月中は各クラスの児童を二グループに分け、時間帯をずらして登校する。
 各家庭で毎朝検温を記録してカードを持参してもらい、忘れた児童には校舎に入る前に検温。マスク着用や手洗いを徹底し、給食に立ち会う教員向けにフェースシールドも準備した。教室の机や校内の手すり、ドアノブ、トイレなどを一日五回ほど教員らが消毒。児童が密集しないよう、水飲み場やトイレ、教室入り口には前の人と距離を保つため、恐竜などの足形を目印として張り出した。
 約三カ月間も授業がなく新学年になったため、再開後は一、二年生に担任が面談し、三年生以上にはアンケートを行い、家庭や心身の状況を確認。徐々に学校生活に慣れるよう取り組む構えだが、新井校長は「やっぱり学力をカバーしないと。休校中の学習に格差があり、個々に応じた指導で手当てしていくしかない」と強調する。
 現場はさまざまな不安を抱える。都内の公立小の三十代男性教員は「一番の心配は年度内に学習を終えられるか。感染の第二波が来たら、どうなってしまうか」。これまでは班ごとに話し合う形の授業を大切にしてきたが、「勉強のスピードが速くなり、どうしても講義調になってしまうと思う」と懸念する。「子どもたちが勉強を嫌いにならないか。どうすれば楽しい授業にできるか」と頭を悩ませる。

 このほか、消毒液の確保や夏場の換気と暑さ対策など気がかりは多い。体育の授業では、体がぶつかり合うようなボール投げや、多くの人が用具に触れるマット運動、跳び箱、鉄棒などを避ける場合、距離を保った縄跳びなどに限られてしまう。「現場で考えていくしかない。難しい」
 多摩地区の公立小教員宮沢弘道さん(43)は「格差の是正」が最大の課題という。「休校中に充実した毎日を送れた子、理解の早い子は大丈夫だが、そうじゃない子たちへのフォローこそ学校教育がやるべきところ」と強調。「休み時間や放課後などに補習でフォローしていくしかない」。ただ、夏休みの短縮や土曜授業などで「子どもも教員もパンクしてしまわないか」と不安を感じている。
 一日から段階的に再開する都立高校は、授業時間を確保するため夏休みを十六日間に短縮する。都立西高(杉並区)は毎年行っている受験対策の夏期講習のスケジュールや内容を再検討している。
 授業の遅れだけでなく、来年一月に大学入学共通テストが予定通り行われるかなどが気になる三年生に、萩原聡校長は「不確かなことには惑わされず、焦らずに、今やらなければいけないことを、しっかりとやってほしい」と呼びかける。

東京新聞 2020年5月31日 08時02分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/32343