「太っ腹!」全区民に3万円の品川区…でもコロナ第2波が来たらピンチか

 区民全員に3万円を支給します―。新型コロナウイルス対策として、東京都品川区が、こんな太っ腹な支援策を打ち出した。品川区は人口も財政力も東京23区の中では平均的なのに、なぜ135億円に上る巨額事業を実現できたのか。全国からは「うらやましい」と羨望せんぼうのまなざしが向けられるが、実はコロナの第2波が来たら一転ピンチに陥る可能性もある。(加藤健太)

◆全国から「うらやましい」

 品川区は6月、国が給付する10万円に上乗せする形で、全区民に1人当たり3万円を、中学生以下には5万円を支給すると発表した。都内初という話題性も手伝って、SNSには「引っ越したい」「うちの区でもやって」と投稿があふれた。区内で子育てする鈴木明菜さん(37)は「すごく助かる。家族で楽しみにしている週末の外食に使いたい」と喜ぶ。


 湾岸エリアに高層ビルが立ち並び、戸越銀座のような活気ある商店街も抱える品川区。ただ、40万6500人の人口は23区中10位、財政力指数も同10位と飛び抜けて豊かなわけでもない。3万円給付の舞台裏では、区議会の猛プッシュが事態を動かしていた。
◆「分かりやすいのはお金」

 「一番分かりやすいのはお金だろう」。品川区や品川区議によると、5月中旬、最大会派の自民党は他の会派にも根回しをした上で、一律5万円の上乗せを浜野健区長に要望した。区長は「バラマキは生理的に嫌悪感がある。やるべきなのか」と迷ったが、「区民の気持ちを上向かせたい」と3万円に引き下げて要望に応じたと本紙の取材に明かした。
 話がまとまると、自民党は「一日でも早く報道発表してほしい」と区側をせかした。今回のような予算案は、全議員への説明会を開いた後に報道発表するのが通例。だが、区がプレスリリースを出したのは説明会の10日以上も前だった。


 ちょうど各自治体がコロナ支援策を一斉に発表する時期。自治体間の競争が激しい今、どこも独自色をアピールしようと懸命だ。品川区議会自民党としても、「都内初」の冠が付く目玉施策を埋もれさせるわけにはいかなかった。
 自民党の思惑どおり、3万円給付は世間にインパクトを与えた。区議会の実力者として知られる自民党の石田秀男幹事長(60)=6期=は「反響の大きさは20年以上の議員生活で断トツ。SNSにすごい数の『いいね!』が付いた」と興奮気味に話した。
◆「貯金」は底をつく水準

 135億円に上る巨額資金を用意するため、区は「貯金」にあたる財政調整基金を大幅に取り崩す。浜野区長は「使うべき時が来た」と決断したが、200億円あった財調はコロナ対策で既に一部を取り崩しており、135億円を引くと残りは21億円になる。23区の平均額が295億円(2018年度)であることを考えると底をつきそうな水準だ。

 自治体財政に詳しい明治大大学院の兼村高文専任教授は「財調はためすぎても批判が出るので是非を問うのは難しい」としながらも、「パンデミックの恐怖で冷静さを忘れてはいけない。財政的にもコロナの第2波に備えるべきだ」と指摘する。
◆第2波が来たら…

 コロナの影響で、自治体の収入(税収)は落ち込む可能性が高い。2008年のリーマン・ショック後、減収した分を穴埋めしたのが財調だった。財調が枯渇すれば、自治体は「貯金」がないため、支出を抑えざるをえなくなる。仮にコロナの第2波で生活困窮者が増えるなどした際に、十分な支援ができない可能性が出てくる。
 品川区は「東京五輪・パラリンピックの延期で聖火リレーイベントなどの経費が浮く」と説明するが、現時点で見通せているのは5億円程度。浜野区長は「災害用」「教育施設用」と目的別にためている基金の存在を挙げ、「基金の付け替えで十分に対応できる」と語る。だが、品川義輝・財政課長は「もう大掛かりな支援は打てない」と不安も口にした。
◆「うちにはできない」(省略)

東京新聞 2020年6月12日 14時49分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/35061