札幌をはじめ道内の都市部の市街地や公園で、キタキツネが頻繁に姿を見せている。
野良猫が減り、餌となるネズミが増えたことで、人里に降りてすみ着くようになったのが主な要因だ。
キツネのふんには寄生虫エキノコックスが含まれている場合が多く、人に感染すると重い肝機能障害を引き起こす恐れがある。
専門家は駆虫薬(虫下し)を混ぜた餌を散布する対策に取り組むべきだと指摘する。

札幌市白石区の自動車整備会社には数年前から、キタキツネの親子が顔をのぞかせる。
ほおをすり寄せ、じゃれ合う姿に、同社の社長(42)は「ほのぼのするね」と目を細める。

札幌では、親子連れでにぎわう中心部の公園でもキツネを見かける機会が増えた。
札幌市は「エサを与えないで」と書いた看板を設置し、注意を呼び掛ける。

理由はエキノコックスだ。
サナダムシの一種で、感染したネズミを食べたキツネに寄生する。
キツネの腸内に卵を産み、ふんと一緒に排出されて沢水を介するなどして人が体内に取り込むことで感染する。
肝臓に寄生すると、成人で十数年後、子どもだとさらに早く症状が出て、最悪の場合は死に至る危険性がある。

道が全道のキツネの死骸などを調査したところ、エキノコックスの感染率は1979年度の5%から右肩上がりとなり、
89年度には17%、2018年度には43%に達している。

■4倍以上に

道内のキツネの生息数は統計がないが、
札幌市内で車にひかれて死んだ数で見ると、04年が約30匹だったのに対し、13年は約140匹と4倍以上に増えている。
北大獣医学部の野中成晃教授(寄生虫学)は、都市部での生息数は増えているとした上で、
「キツネは駆除や追い払いが難しく、エキノコックスの感染対策は不可欠だ」と話す。

有効とされるのが、ベイトと呼ばれる駆虫薬入りの餌を与える方法だ。

ベイトは市販されておらず、札幌の市民団体「環境動物フォーラム」が製造方法を指導している。
胆振、十勝、オホーツクの3管内12町村がベイトの散布に取り組んでおり、
団体の神谷正男代表は「実施する自治体の感染率は数%」と効果に自信を見せる。

一方、道や札幌市は「キツネの感染率が下がれば、人への感染が減るとの科学的根拠はない」として、
手洗いの励行や看板周知にとどまっているのが現状だ。

■「5年続けて」

映画「子ぎつねヘレン」の原作者でキツネの感染症対策に取り組む
獣医師の竹田津実さん(83)=上川管内東川町在住=は、ベイトの全道的な散布を訴える。
ある地域で感染を抑え込んでも、他地域から感染したキツネが越境する可能性があるためで、
「費用や人的労力はかかるが、5年続ければ、キツネの感染は抑え込める」と強調する。

写真:自動車整備会社の敷地内でくつろぐ子ギツネ
https://static.hokkaido-np.co.jp/image/article/650x366/430/caa2eba3a0568fb3601bc531e8c243d3.jpg

以下ソース:北海道新聞 06/15 05:00
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/430656