農水省は16日、新たな飼養衛生管理基準を決めた。当初案で中止としていた牛と豚の「大臣指定地域」での放牧については方針を転換、放牧を認める。指定地域以外の牛豚の放牧も、当初案では新たな畜舎の確保を求めていたが、簡易な設備でも良いようにする。生産現場からの懸念の声に配慮し、柔軟な内容に軌道修正した。

 食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会が同日、新たな管理基準と特定家畜伝染病防疫指針について江藤拓農相に答申した。新たな管理基準に盛り込んだ放牧に関する制度変更は、豚では今年11月以降、牛では来年10月以降順次適用となる。

 大臣指定地域は、豚熱とアフリカ豚熱、口蹄疫(こうていえき)が野生動物に広まった場合に設定する。管理基準の当初案では、指定地域での牛と豚の放牧について中止するよう明記。指定地域以外の牛と豚の放牧についても、家畜を飼養できる畜舎の確保や出荷などの準備をすることを求め、生産現場の一部からは懸念の声も出ていた。

 今回の新たな管理基準では、指定地域の放牧について、豚は一定の条件下で認める。一定の条件は、給餌場所への防鳥ネットの設置と避難用設備の確保で、設備は夜間などに豚を1カ所に集め、管理ができる簡易なものを想定する。今後、詳しい内容を定めた手引きを作り、現場に周知する。

 当初案で、指定地域以外の放牧に求めていた畜舎の確保は、避難用の設備の確保に変更した。

 豚熱の指定地域は、ワクチン接種推奨地域の24都府県で、対象となる放牧養豚農家は14戸。11月までに避難用の設備を確保する必要があるが、2021年4月まで猶予期間を設ける。

費用負担に国の支援も

 農水省は16日の参院農林水産委員会で、飼養衛生管理基準の見直しに伴う放牧養豚の扱いとして、条件付きで可能になるとの考えを示した。豚熱やアフリカ豚熱に感染し、地域に拡大するのを防ぐため、現場で対策を講じることを重視。国による支援で農家の費用負担は抑えるとした。

 立憲民主党の宮沢由佳氏や国民民主党の徳永エリ氏、共産党の紙智子氏への答弁。

 同省は、大臣指定地域での放牧養豚について、野生イノシシ対策の柵や給餌場所の防鳥ネット設置、家畜の避難用の簡易な設備を設けることを想定する。一連の対策を農家が講じるに当たり、江藤拓農相は、国が財政的に支援するとした。放牧養豚の条件は「超えられないような高いハードルではない」と強調し、放牧経営は今後も続けられるとの考えを示した。

 藤木眞也農水政務官は「放牧養豚は野生動物との接触機会が増加し、家畜伝染病の発生リスクの高い飼養形態」と指摘。十分な対策が必要とした。
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