西澤真理子 リスク管理・コミュニケーションコンサルタント

(前略)
  ▽混乱と疲弊を起こしている「3密」
(中略)
 「3密」回避の誤解は根深い。「3密」とは、集団感染(クラスター)が起きる状況が揃いやすく、避けるべき環境のことだ。だが注意すべきは、「密集、密閉、密接」のうち、3番目の「密接」は「会話」が発生する「条件付き密接」。それも大声や長い会話などの「密な会話」を指す。(中略)

 ▽「マスクをすればよい」は、思考停止

 コロナの感染は2通りだ。「飛沫(つば)」を直接受けるもの(飛沫感染)と、飛沫が周りに飛び散り、別の人が陽性者の「ウイルス入りつば」がついたコップ、ドアノブ、手すりなどを触り、指を介し口(もしくは鼻)に入り、喉の奥に感染する(接触感染)。

 飛沫は大きな声や長い会話で飛びやすいが、それ自体が重く、大概1・5メートルで「ぼとっ」っと下に落ちる。互いに2メートル(1・5メートルの場合も)のソーシャルディスタンスを取る必要があるのはそれが理由だ。ちなみに、飛沫と一緒に出るエアロゾル(微粒子;「はーっ」と息を吐くと曇るその曇りのこと)感染が実際に起きているかは明確ではなく、例え起きたとしてもウイルス量は飛沫に比べ圧倒的に少ない。マスクをすると息苦しくこもりやすく、余計にエアロゾルが出る。(中略)


 ▽夜の街で思った「ちょっとしたこと」の大切さ

 「3密」や「新しい生活様式」ではなく、なぜもっとシンプルかつ有効な感染症対策がなぜ伝わらないのか。それは筆者が先週に感染症専門医で、新宿二丁目営業再開のためのガイドラインを監修した岩室紳也医師と、ホストクラブやバーなど、歌舞伎町、新宿二丁目にある数店舗を訪問し、やはり感じた疑問だ。

 都内随一の歓楽街の歌舞伎町にはホストクラブだけでも100を超える店があり、数千人が働いている。保健所などの公的支援だけでは現場に合わせた周知が及ばない。「夜の街応援!プロジェクト」は筆者らが立ち上げ、スタッフと共に店舗でのコロナリスクを低減することを考えていく試みだ。リスク管理では、ハイリスク対策を重点的に行い、リスクを下げることが鍵になる。

 実際に訪れた店舗に入ると、コロナ対策として靴の消毒や入り口での検温、テーブルにも液体アルコール消毒スプレーが置かれ、政府のガイドラインに従い、感染を起こさないことに気を配っていることが分かる。

 しかし、実際に店舗を回ると岩室医師からは多くの改善点が指摘された。それも、ガイドラインなどには書いていない「ちょっとしたこと」。だがそれが、感染予防には実に重要な情報だ。

 例えば、客に提供するグラスは、飛沫を防ぐビニールシートで棚をおおうより、カウンターの下に保管する。客に提供する直前に洗い、ふきんではなく、使い捨てのペーパータオルを使う。洗面所では、客が蛇口を手で触らないよう、できるだけ自動水洗化、もしくは、肘で蛇口を操作できるレバーにする。店側は、洗面所から席に戻った客に手指消毒を勧める。

 おつまみは、皿に盛って提供するのではなく、出来るだけ個包装のものを出す。客にも口に入れる可食部分を手で触らないように伝える。客との立ち位置、座り方も、飛沫がかからないようお互いに斜めになるよう工夫する。手指消毒を徹底するため、個別のアルコール手拭いを用意し、個別配布する。喫煙の際には、指が唇に触れないようにする。キスする前に単純なうがいをすることでもウイルス量を減らせるなど、キスエチケットがあることを周知する。カラオケや大きな声を出す状況では、飛まつが飛ぶ経路周辺に、口が触れるグラスや食べ物、飲み物を置かず、ビニールシートで遮断する。飛沫が落ちているので店の床には触らない、触れたら手を洗う。

 店のフロアやテーブルだけではなく裏方の作業場や洗面所も回り、スタッフからの質問には、岩室医師の具体的なアドバイスが尽きなかった。一店舗当たり40分程度の滞在であったが、飛沫感染とは何か、食事前の手洗い(手指消毒)の重要性という2点に絞って話した。リスクはゼロにできないから、一つ一つの対策を組み合わせることでリスクを少しずつ低くしていくという考え方をスタッフに伝える姿が印象に残った。

 ▽シンプルな具体策が必要(後略)

全国新聞ネット 2020/7/5 09:00 (JST)
https://www.47news.jp/47reporters/4981193.htmlc株式会社