大阪府市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致計画の遅れが、開設先となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)への鉄道整備プロジェクトに影を落としている。(中略)(黒川信雄)

 ■異なる集電方式に対応

 「夢洲方面への特急接続は、万博開催とIR開業を前提で検討している。(IR実現の)時期などを含めて、注視していきたい」

 6月19日に大阪市内で開催された近鉄グループホールディングス(HD)の株主総会で、株主から夢洲方面への特急計画について問われた近畿日本鉄道の都司(つじ)尚(たかし)社長はこう手短に答えるにとどめた。

 近鉄は奈良駅(奈良市)を始点とする奈良線と、夢洲に延伸する大阪メトロ中央線に乗り入れる近鉄けいはんな線を結び、奈良と夢洲を結ぶ特急運行を検討している。奈良線とけいはんな線が異なる集電方式を採用しているため、これに対応可能な新型車両を開発するという野心的な計画で、実現すれば万博やIRに訪れた国内外の観光客を近鉄の牙城である奈良や伊勢志摩、名古屋方面に運ぶことができる。業界内では“IR特急”と呼ばれ、期待を集めている。

 ただ、早期の実現には早くも疑問符が付く。株主総会では冒頭、新型コロナを受けた経営環境の激変を受け、同計画を含む近鉄の「3大プロジェクト」について、「実施の時期や規模を慎重に検討していく」との説明があった。

 ■京阪、JRも歯切れ悪く

 夢洲への路線接続をめぐっては、京阪ホールディングスやJR西日本も検討を進めているが、いずれも早期の実現については歯切れが悪い。

 京阪HDは大阪メトロ中央線が通る九条駅まで中之島線を延伸し、大阪メトロとの接続を検討しているが、6月19日開催の株主総会で質問を受けた同社幹部は「IR誘致実現を前提に、事業性を見定めて決定していく」と慎重姿勢を強調した。

 JR西日本は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の最寄り駅がある桜島線を夢洲まで延伸することを検討しているが、新型コロナを背景に自社の経営は悪化しており、「安全分野以外については事業を個々に見直す」(長谷川一明社長)とのスタンスを示している。延伸計画にも影響が及ぶ可能性が高い。

 一方で大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)は、中央線を延伸して夢洲に新駅を開設する計画について、「変更はない。年内にも具体的な工事に着手していく」(河井英明社長)との方針だ。ただ中央線の延伸計画は、万博の開催決定を受けて同社の株式を100%保有する大阪市が決めたもので、大阪メトロは市側の決定をもとに事業を実施するとの立場だ。

 ■経済界は大阪府市に不満

 関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は6月8日、IRの実現が遅れることで、「当然、鉄道の整備計画にも影響が出てくる」との見通しを示した。松本氏はさらに、大阪府市が当初、万博開催と同時のIR開業を目指していた点について「国家的イベントである万博の準備と、1兆円もの投資が必要なIRの工事を同時に進めるなど、もともと無理だった」と述べ、IRの早期開業を推し進めた府市への不満をにじませた。

 大阪に限らず、国内各地の自治体では、IRの誘致計画が大幅な遅れを余儀なくされている。IR整備の要件などを記した「IR基本方針」は今年1月にも閣議決定される予定だったが、新型コロナの影響もあり実現していない。大阪府市は6月23日、国の基本方針策定遅れなどを理由に、IR整備計画への参入を希望する事業者の応募書類提出期限を当面の間延長すると発表した。

 さらに世界的な新型コロナの感染拡大で、各国のIR事業者は施設の閉鎖に追い込まれ、業績が大幅に悪化している。米最大手のラスベガス・サンズは5月、コロナ禍を受けて日本参入を断念する方針を表明した。

 都市開発に詳しい近畿大の久隆浩教授は「夢洲などが位置する大阪の湾岸部は、東京や横浜の湾岸部と違って都心部から距離があり、そもそも開発が困難な地域」と指摘したうえで、「IRの実現が見通せないなか、鉄道各社は多大な経営リスクを冒してまで、夢洲までの路線を整備しようとは思わないだろう」と分析している。

産経新聞 7/5(日) 8:30配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/436c3bc075302e6b790f4fe11e4b3373e3361b7c