西日本豪雨では、逃げ遅れた多くの高齢者が犠牲になった。豪雨を受け、広島市東区の矢田町内会は、支援を希望する高齢者一人ひとりの避難計画を作成。高齢者の避難開始を示す警戒レベル3が発令されたら、一緒に逃げる。「一人じゃ動けない人の情報を共有できる仕組みをつくりたい」。自主防災会長の木村隆明さん(75)は、支援対象者を増やしていく考えだ。

 矢田地区では豪雨の犠牲者は出なかったが、地区内の8割で土石流が起きる恐れがある。このため町内会は昨年10月、自力で歩くのが難しい高齢者ら3人と面談。避難所への移動手段など希望を聞き、計画を作った。本人の同意を得て、防災士や役員ら24人が情報を共有。災害時にはLINE(ライン)で連絡を取り、近くにいる人が駆け付ける。

 道が狭くて車が入れない高齢女性の自宅には4人が徒歩で迎えに行き、車いすを押す。土砂が流れ込み車いすが使えない場合には数十メートル先の倉庫に保管するリヤカーに乗せて運ぶ。女性は「逃げられるか不安だった。ここまでしていただけるなら安心」と計画を喜んだという。
 役員は1年で替わるが、防災士や役員OBは固定メンバー。「だからいろいろな支援ができる」と木村さん。国によると、介助が必要な高齢者らへの個別の避難計画を作成した町内会は少ないが、「病気や事故で動けなくなった人の情報も民生委員がキャッチし、支援する仕組みを整えたい」と対象拡大に意欲を示す。

 同様の動きは県内の別の地域にも波及。木村さんの防災士仲間で、呉昭和自主防災連合協議会長の松田政和さん(72)=呉市焼山桜ケ丘=は、避難計画の作成を検討中だ。「まずは地元の小学校区で作りたい」と話す。
 松田さんは、近隣地区の病院が避難で配慮が必要な住民を受け入れる協定を地元自治会と結ぶことにも尽力。協定では災害時、浴室や多目的ホール、畳部屋がある病院内のデイサービスセンターを緊急避難場所として使う。
 昨年10月に同センターで行われた訓練では、住民からは「避難したい」「ありがたい」との声が上がった。松田さんは「一人ひとりに寄り添う『小さな防災』を進めたい」と力強く語った。
時事通信 2020年07月05日20時34分
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