週3000万件の検査の是非は?


CDCによるCOVID-19検査キットに当初、欠陥があったことにより、米国では新たな感染者の発見が遅れ、
いわば「水なしで火事を消そうとする」ような事態となった。

今年の春にロックフェラー財団から出されたある報告書は、検査の数を週100万件から週300万件へと2カ月で「劇的に拡大」するよう求めていた。
米人口の約1パーセントを対象としたこの検査と「高精度」な接触追跡とを組み合わせることにより、
経済活動を部分的に再開できるだろうというのが、財団の予測だった。

しかし、このアプローチでは、接触者の70パーセントが隔離に応じる必要があると、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの上級研究員、
クリスタル・ワトソン氏は述べている。もし流行が広がりすぎれば、接触者の追跡はうまくいかず、追跡がうまくいかなければ、
ワクチンなしでCOVID-19をコントロールするには、米国は週に3000万件の検査を行う必要があると、ロックフェラー財団の報告書にはある。

同報告書ではこれを「1-3-30計画」と呼んでいる(検査数を週100万、300万、3000万と増やしていくという意味)。

米国の新規感染者数は5月中旬以降ほぼ横ばいで推移した後、6月半ばからまた急増した。悪化を招いた原因は何だろうか。
「われわれはあまりにも検査、検査と唱えすぎて、それで何が達成できるのかをよく理解していなかったのです」と語るのは、
米ミネソタ大学感染症研究政策センター(CIDRAP)所長で、1-3-30計画の報告書の共著者でもあるマイケル・オスターホルム氏だ。

「特定の地域で実施される検査数ばかりを重視せずに、何の検査が必要なのかをよく考える必要があるでしょう」

検査では偽陽性が出るリスクは常にある。そのため都市、州、国などがあまりに多くの検査を一般市民に対してランダムに行うと、
隔離の必要がない人たちまで隔離してしまうことになる。

優先すべきは、COVID-19とみられる症状を持つ個人をできる限り早く見つけ出して検査を進めることだ。そうすれば、適切な患者をより早く隔離できる。

「症状もなく、検査のための疫学的な特徴もない人たちを検査することを前提としたアプローチには、深い懸念を抱いています」と語るのは、
ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの疫学者、ジェニファー・ヌッツォ氏だ。

ヌッツォ氏は、最もリスクの高い集団からCOVID-19を根絶するために、介護施設や刑務所において全員の検査を定期的に実施するなど、
週300万件以上の検査が必要だと考えている。一方で、週に3000万件の検査というのは非現実的だと氏は語る。なぜなら、サンプルを処理できる国内の研究所の数は限られているからだ。

感染状況を監視するための基準は、検査の陽性率、つまり検査件数の何パーセントが陽性かをチェックすることだとヌッツォ氏は言う。

世界保健機関(WHO)では、COVID-19の疑いがある人を包括的に検査した場合の陽性率を、14日間連続で5パーセント以下にすることとした。
このラインを超えると、COVID-19の集団から集団への感染を抑えるのは難しくなるからだ。

ところがCDCとホワイトハウスは、州の検査陽性率が20パーセントを下回れば、街を再開できるとしている。
「これは高い数値です」と、ヌッツォ氏は言う。現在感染者数が急増している30州のうち、16州では陽性率が5パーセントを超えており、残りの州でも陽性率は上昇傾向にある。

「第2波」についての科学者の考え方も変化している。疫学的な観点からいえば、本来「波」は人間がさほど介入しなくとも自然に消滅していくものだが、
コロナウイルスはそうした従来のパターン通りに推移していない。

「わたしはもう、これを波とはみなしていません。実際にあるのは山と谷なのです」と、オスターホルム氏は言う。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO61109340T00C20A7000000?page=2