●(3)せん妄についての判断について

控訴審では、検察側と弁護側の双方から推薦された専門家の証人尋問がおこなわれ、女性がせん妄状態にあったか、せん妄状態にあったとして幻覚が生じる可能性があるかなどについて証言された。

検察側証人として出廷した獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科診療部長の井原裕氏は「せん妄に陥っていた可能性はあるものの、せん妄による性的幻覚を見たという可能性はない」として、女性の証言の信用性に問題はないと証言していた。

一方、弁護側証人として出廷した埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授の大西秀樹氏は「せん妄状態にあり、LINEメッセージを打つことは、手続きの記憶として意識的な処理なしに自動的に行える」と指摘。「せん妄状態であっても可能で、女性が幻覚であった可能性が高い」と証言していた。

高裁判決は、「LINEメッセージを打つことを手続き記憶による行動と説明するには飛躍している」などとして、「大西医師の証言は井原医師の証言と比較して信用性が低いと言わざるを得ない」として、女性の証言の信用性の判断に影響を及ぼすことはないと結論づけた。

高野弁護士は「検察側証人の診断は、世界的なせん妄に関する診断基準を無視した独自のもので、なんの裏付けもない。科学者たちの証言を根こそぎ否定する暴挙に出た」と批判。「この時代に冤罪が生まれたことについて衝撃を受けている。さらなる戦いを進めていきたい」と最高裁で争う姿勢を示した。