新型コロナウイルスに感染し鹿児島市内の宿泊施設で療養していた同市の20代男性が、17日までに南日本新聞の取材に応じ、10日間の療養生活について語った。男性は、症状が軽くなっているかなくなっていればPCR検査で陰性を確認しないで退所するという厚生労働省の基準に従って14日に退所。だが、陰性という“お墨付き”のないままの社会復帰に不安を抱え「職場や周りの人に納得してもらえるだろうか。みんなが安心できる環境をつくってほしい」と訴えた。

 男性はクラスター(感染者集団)が発生した鹿児島市のショーパブ「NEW おだまLee男爵」に6月下旬に来店。症状はなかったものの、ニュースを見て検査を受け7月3日に感染が分かった。「たまたま行った店で、まさか自分が感染するとは思っていなかったが仕方ないと覚悟した。勤め先の店のオーナーが心配してくれて救われた」と振り返る。

■感じないにおい、味

 保健所の指示に従い、自宅待機を経て5日に県が借り上げたホテルに入った。待機中に発熱し、のどの痛みが出た。

 ホテルではバス・トイレ付きの客室から出ることは禁止。主にテレビを見て過ごし、電話で1日数回、体温などを県の担当者に報告した。食事は朝昼夕、廊下側のドアノブに弁当とお茶が入った袋がかけられ、館内放送後にドアを開けて受け取る。朝は水2リットルも配られた。部屋から出られない生活はきつかったが「治るなら、誰かにうつさないのなら」と耐えた。

 のどの痛みは続き、夜中に発熱する日もあった。入所から数日後、鼻水がひどくなり、洗濯中に柔軟剤のにおいを感じないことに気付いた。食事の味も分からなくなった。

 一緒に店に行った友人らも感染し、入院や宿泊療養していた。電話で互いの近況を伝え「つらいのは自分一人じゃない。みんなで陰性になって帰ろう」と励まし合った。

 同じような症状の友人は入院中にPCR検査をしたと聞いた。一方「自分は症状を県の担当者に伝えたが、医師の診察も検査もなかった。軽症か重症かも分からなかった」と振り返る。

■社会復帰「アフターケアを」

 厚労省の退院基準は原則、発症日や陽性が確定した検査の検体採取から10日後で、PCR検査は必要ない。症状がある場合は、症状が軽くなってから72時間たっている必要もある。宿泊施設や自宅で療養している場合も同じ基準が適用される。

 退所に際し、県の担当者から「厚労省の基準で、PCR検査は不要」と言われ驚いた。

 さらに、配布された「退所される方へのお知らせ」というプリントを見て不安が募った。「他の人への感染性はない」としながらも「退所後に再度陽性となる人がいる」と書いてある。後日、自宅に郵送するという証明書も「陰性」ではなく「厚生労働省の定める退所基準を満たした」証明だという。

 プリントには「せき、発熱、のどの痛みなどの症状が出たら帰国者・接触者相談センターに連絡するように」ともあった。軽くなったとはいえ、のどの痛みと鼻水の症状は残っている。「万が一、外で誰かにうつしたら、感染を広げないようにと店名を公表した店の人に申し訳ない」と心配する。

 結局、検査されないまま14日に退所した。退所後1週間は自宅待機する。検査で陰性になったと思っている職場の人にどう説明するか悩む。

 個人で検査できる医療機関やキットをネットで探している。「せめて個人で検査できる方法を紹介するなどアフターケアをしてほしい」

 これからの生活も気がかりだ。「陰性になったと言えない状態は周りの目にはどう映るのか。誰でも感染する可能性があるウィズコロナの時代になれば、同じ悩みを抱える人は増える。感染し復帰した人の不安を和らげ、暮らしやすい環境を整えてほしい」と話す。



 県内の感染者は3月以降7月17日までに162人に上り、16日までに88人が退院・退所した。

7/20(月) 6:30 南日本新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/4638efc57aecaa186d195527e454de019d01d18e?page=1