【ベルリン時事】ITと金融を融合したフィンテック分野で、ドイツの旗手とされた決済大手ワイヤーカードが会計不正で6月末に経営破綻した。IT産業で米国や中国に後れを取るドイツでは、メルケル政権が同社に欧州版の「GAFA(アマゾン、アップルなどの米巨大IT企業)」となる希望を託し、後押ししてきた。しかしその野望は、あえなくついえた。

 ワイヤーカードは1999年に創業した。当初はポルノサイト決済などが主な収入源だったが、世界各地で買収を通じて事業を拡大。売上高は2018年時点で20億ユーロ(約2500億円)超と、10年で10倍となった。

 市場の期待を一身に集めたワイヤーカードの時価総額は一時、独金融最大手のドイツ銀行すらしのいだ。ソフトバンクグループとの提携も話題となった。
 ただ、目立った独自技術がない中での急成長には疑問の声も多く、英紙フィナンシャルタイムズ(FT)の調査報道で数々の会計不正が発覚。6月に19億ユーロの現金が「行方不明」になっていると認め、あっけなく破綻した。
 ドイツは日本と同様、国内総生産(GDP)に占める製造業の割合が2割超と、1割程度の米国と比べ高い。自動車や化学、機械では強い競争力を誇る一方、有力なIT企業に乏しい。経済省が昨年発表した産業戦略では、IT企業が「米中に比べ勢いがない」と危機感が明示された。
 それだけに、ワイヤーカードへの政権の肩入れは露骨で、メルケル首相が昨年9月の訪中で同社による中国決済企業買収の承認を働き掛けるなど、数々の政府の支援が明らかになっている。独メディアは当局が不正を把握していたかを追及し始めており、産業戦略と不正対処の双方に失敗したという意味で、政権の大きな痛手となりそうだ。

j時事通信 2020年08月21日20時34分
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