安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は8日、告示される。5派閥の支持を受けて優勢な菅義偉官房長官を追う形の岸田文雄政調会長と石破茂元幹事長が7日、日本経済新聞などのインタビューに答えた。異次元の金融緩和を当面続けつつ、社会のデジタル化や東京一極集中の是正を進める新たな組織・閣僚を置くと訴えた。

■岸田氏、中小企業のPCR検査支援
岸田氏は新型コロナウイルス対応で顕在化したデジタル対応の遅れを改善するため、新たに2つの政府機関を創設する考えを示した。「政府に強力な権限を持つ組織が必要だ」と語った。

具体的には産業や医療に関する国内外のデータを活用して経済成長やコロナ対策につなげるために「データ庁」を設ける必要性を唱えた。司令塔組織として「データの標準化やルールをつくり、世界と協調できる体制をつくる」と話した。

経済成長には「ビッグデータや(高速通信規格)5Gなど最新技術を社会に実装することが大事だ」と強調した。

もう一つの新設機関として「政府デジタルトランスフォーメーション(DX)推進委員会」も打ち出した。行政の縦割りを排して社会全体のデジタル化を推進する。

現行の行政の体制には「省庁や自治体ごとにシステムが最適化されて共通性や汎用性が乏しい。全体のデジタル化が進まない」と苦言を呈した。

コロナ対策には「経済や社会を回すために検査の精度や頻度、コストが重要だ」と言及した。従業員に検査を受けさせる中小・零細企業に財政支援する方針だ。

安倍政権が進めてきた異次元の金融緩和は「当面、基本は維持する」と述べた。「平時に戻すため努力する」と中長期的な出口戦略にも触れた。

外交は「基軸は日米同盟だ」と主張した。米国と対立を深める中国については「東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更や香港などでの自由に関して言うべきことは言う。関係をしたたかにコントロールする」との考えを披露した。

北朝鮮の日本人拉致問題では「自ら先頭に立つ姿勢をしっかり示し、交渉のチャンスや糸口を探っていく」と言明した。

総裁選で菅氏が優勢な状況について「政策は明らかに違うところがある。政治姿勢でも違いを明らかにするよう努力する」と意気込んだ。

■石破氏、早期解散には慎重
石破氏は東京一極集中を是正し、地方を活性化させる方策に集中的に取り組む担当閣僚を設置する考えを表明した。省庁の縦割りを排して地方移住などを促進する役割を担わせる。

「予算や税制などで支援しないと移住を阻む原因は取り除けない」と述べた。仕事や教育、医療の環境など地方移住が進まない問題点は担当閣僚の主導で解決する必要性があると主張した。

「政府としてものすごい意思を持ってメッセージを発しないと一過性のものに終わる」と語った。

安倍政権が進めてきた異次元の金融緩和を巡っては当面、継続する考えだ。「金融政策をすぐに変更することはない。激変があってはならないのは経済の安定から当然のことだ」と話した。

株価の上昇や企業業績の改善などに触れて金融緩和を肯定的に評価した。そのうえで「これがサステナブル(持続可能)なものであるかは別の話だ」と指摘し、検証の必要性にも言及した。

消費税については「安定財源として消費税の必要性は揺らぐものではない」と説いた。1日の記者会見では、所得の少ない人ほど負担が重くなりやすいことから「消費税の役割をもう一度検証する」と語っていた。

安定的な皇位継承策を巡る女系天皇の是非については「女系という選択肢は排除されるべきではない」との立場を明らかにした。

昨夏の参院選を巡る公職選挙法違反で起訴された河井克行前法相と妻の案里参院議員の問題には「公認した自民党として責任は持たないといけない」と述べた。

憲法改正については2012年の党改憲草案を前提とする構えだ。

衆院解散・総選挙については新型コロナウイルスの影響で通常の選挙戦は困難だと説明した。「各種世論調査では国民の多くが任期満了でいいと言っている」と語り、早期解散に慎重な姿勢をみせた。

日本経済新聞 2020年9月7日 20:50 https://r.nikkei.com/article/DGXMZO63550010X00C20A9000000?s=5