新型コロナウイルスの感染が収まらない中、介護現場で必需品の使い捨て手袋が世界規模で不足している。個人の衛生管理の意識が高まったり、スーパーや飲食店でも使うようになったりしたためとみられ、仕入れ値も跳ね上がり入手しづらい。国内ではほとんど製造されていないうえ、マスクのように手作りできず、急激に高まる需要に供給が追いついていない。(神谷円香)

◆個人やスーパーでも使うことで品薄に
 介護現場では、食事の介助や口のケア、おむつを替える排せつ物の処理などで使い捨ての手袋が必需品。しかし、神奈川県の特別養護老人ホームで働く60代男性は「これまで毎月注文していたが、6月以降は注文しても品物が届かない」と嘆く。備品の在庫管理を担当し、3月は「なくなるかも」との情報で2カ月分を購入した。5月初めに再度注文し6月に届いた分が残り少ない。6月以降も毎月注文しているが、7月と8月に届くはずの品物が今も届いていない。
 不足しているのは、塩化ビニール製やニトリル製の薄手の使い捨て手袋。手にフィットして汎用性が高い。コロナ禍以前は通常は1箱100枚入りが数百円程度だったが、今は数倍に跳ね上がっている。男性の施設では、台所用の厚手の手袋で一部代用するなどやりくりするが、品薄が続くならば「どう感染リスクを減らし安全性を担保するか、保健所に指針を示してほしい」と話す。

◆日本ではほぼ生産していなかった
 全国老人福祉施設協議会は3月から、マスクやガウン、消毒液、手袋などの供給状況をメーカーに聞き、どこで買えるかを全国の高齢者施設に情報提供してきた。当初はマスクが不足したが、今は手袋がないと切迫した声が各地から届く。
 塩ビ製は中国、ニトリル製はマレーシアが主な生産国で、国内メーカーはこれらの国から買い付けて販売している。あるメーカーによると、現在は「欧米の買い付けが強く、価格高騰に日本の業者がためらううちに持って行かれる」状態。あまりの値上がりに入荷を停止する企業もあり、「国内流通はしばらく回復しそうにない」という。

◆一般人には不要「小まめな手洗いの方がいい」WHO
 国内大手のショーワグローブ(兵庫県姫路市)は8月、ニトリル製手袋の生産拠点を香川県に新設すると発表した。担当者は「これまで生産していなかったが、海外に発注しても半数しか入らず、出荷できないのは心苦しかった」と話す。操業開始は2023年春を予定する。
 一般の人が感染予防として手袋を付けるのに効果はあるのか。世界保健機関(WHO)は、「手袋の表面にもウイルスは着く。その手で顔を触れば同じこと。小まめに素手を洗うほうが感染は防げる」。米疾病対策センター(CDC)も普段は手袋は必要ないとし「手袋をするのは、家を掃除する時と病気の人をケアする時」と説明している。

東京新聞 2020年09月09日 05時55分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/54242