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◇女性初の副大統領なるか

 今回の大統領選の過程で女性に注目が集まったのは民主党の予備選段階で、エリザベス・ウォーレン上院議員(71)やエイミー・クロブシャー上院議員(60)らが一時的に有力候補として浮上したのがきっかけだった。#MeToo(ミートゥー)運動の高まりもあり、女性の声を吸い上げることが政治的な力になりえることが予備選の過程で改めて確認された。そうした党支持者の声を踏まえ、バイデン氏は候補指名が固まりつつあるなか、テレビ討論会で「女性を副大統領候補に指名する」と明言した。

 そして十数人の女性から悩んだ末にバイデン氏が選んだのは、インド系の母親とジャマイカ系黒人の父親を持つ元検事のカマラ・ハリス上院議員(55)だった。

 民主党大会(8月17〜20日)は全体を通じて、米国が人種や宗教もさまざまな人たちの集まりであることを確認し、多様性こそが米国の力の源泉であることを強調した。ハリス氏は生い立ちからして、このテーマにぴったりで、19日の演説では、「すべての人には無限の価値があり、共感や尊敬に値するという基本的な信念でこの国は結ばれている」と訴えた。

 民主党の副大統領選びに大きな関心が集まったのは、バイデン氏が当選した場合、来年の就任時には78歳という史上最高齢となり、「再選は狙わない」と公然と語られていることも背景にあった。副大統領の職務は主に儀礼的なものが多く、実際には大きな権限を有するわけではない。だが、女性初の副大統領ともなれば、メディアへの露出も上院議員とは比べものにもならないほど増え、「ポスト・バイデン」の筆頭候補になるのは確実だ。その前に高齢のバイデン氏に体調の異変があれば、ただちに大統領に就任する可能性もある。

 副大統領候補の選定の途中で、黒人が銃で撃たれる事件が相次ぎ、「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命は大事だ)運動が盛り上がりを見せた。その結果、副大統領候補に白人女性をあてるハードルが上がってしまったという面は否定できない。バイデン氏が、選定の最終盤に面会していたのが、白人の中西部ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事(49)だった。トランプ政権の新型コロナウイルス対応を強く批判。連邦政府の財政支援獲得のために面従腹背する民主党知事が多い中、決然とトランプ氏と対立した。今年2月のトランプ氏の一般教書演説に対する、民主党を代表しての反論演説もウィットマー氏が行っており、「次世代民主党を背負う人材」との評価は固まっていると言ってよいだろう。党大会では初日の17日に演説し、「専門家の意見に耳を傾けてパンデミック(世界的な大流行)対策に真剣に取り組んだ。ホワイトハウスはほとんど助けにならなかった」と挑戦的な姿勢で、トランプ政権の批判を続けた。

 他にも中南米系女性で西部ニューメキシコ州のミシェル・ルアン・グリシャム知事(60)らも注目を集めた。一方で、党大会で男性の若手政治家の影は薄く、登壇者の中で次の大統領選に出てきそうなのは西部カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(52)ぐらいだった。



 共和党には民主党より女性議員が少ないが、党大会には女性政治家が多く登場し、党のイメージを刷新しようとしていることがうかがえた。もちろん、女性票の獲得が狙いだ。そのなかで、南部サウスカロライナ州前知事、ニッキー・ヘイリー前国連大使(48)の演説は、特異な印象を与えた。国連でのトランプ政権の活動を紹介し、民主党のオバマ前政権を批判した。だが、それに加え、「米国は人種差別国家ではない」と訴え、インド系移民である自らの生い立ちとキャリアについて延々と語ったのだ。まるで自己紹介のような演説だった。ヘイリー氏は共和党穏健派で、もともとはトランプ氏に批判的な立場だったが、協力姿勢に転じ、国連大使に就任した経緯がある。共和党が「トランプ党」になれば、自分の政治生命が終わると計算した行動だったようだ。24年大統領選は当然、視野に入っているだろう。

 1984年の大統領選で民主党の副大統領候補に女性のフェラーロ下院議員が指名された際は、「2大政党初の女性副大統領候補」は歓迎されなかった。多くの女性の有権者が「女性副大統領」は不適切と考え、民主党惨敗の一因となったと言われる。それを考えると、米国の有権者の意識は相当変わったのは明白だ。今回の大統領選で民主党が勝利し、ハリス氏が女性初の副大統領となれば、女性大統領誕生に向けた動きはさらに加速するだろう。民主党だけではなく、共和党も「初の女性大統領」を狙い、競い合いになる可能性は小さくない。【北米総局長・古本陽荘】

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/b06740309e2c13cf283d56d73da805f1f50fdac5
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