菅義偉の力の源泉

 「困難な中、一緒に努力してきたことが続けられなくなるのは非常に残念だ」

 8月29日午後、国会内で安倍晋三から辞意を伝えられた公明党代表の山口那津男は記者団を前に厳しい表情で語った。

だが、2012年の第二次安倍内閣発足から8年近く、安倍と山口は数えきれないほど会談を重ねてきたにもかかわらず、最後までウマが合わない微妙な関係のままだった。

 リベラル思想の持ち主である山口は、気を許した相手との酒席では時に安倍を口汚く罵るほどの安倍嫌いであり、一方の安倍も「山口さんは形式的なことばかり言うから苦手だ」と側近にこぼしてきた。

 安倍政権下で常にギクシャクしていた自民党と公明党の仲を取り持ってきたのが、官房長官の菅義偉だ。

 公明党が支持者に約束してきた消費税の軽減税率導入問題で、2016年には財務相の麻生太郎や幹事長(当時)の谷垣禎一ら自民党側が強硬に反対する中、菅は「公明党が賛成しなければ法案は通らないし、選挙もできない」と公明党の主張を全面的に受け入れるよう安倍に迫り、飲食料品全般への軽減税率導入を実現させた。

 昨年の参院選では、公明党候補の苦戦が予想された兵庫選挙区に3回も入り、地元の自民党県連の猛反発を無視して、自民党支持の住宅・港湾関連の業界団体票を公明党に回すなどしてテコ入れし、当選させた。

 こうして強固さを増してきた公明党・創価学会とのパイプが、菅の力の源泉になってきた。

 いまや創価学会と本音で話ができる自民党議員は菅だけであり、衆院小選挙区ごとに2万票以上はあると言われる学会票を差配できるとなれば、選挙基盤が脆弱な若手議員たちは、こぞって菅になびく。

 昨年の参院選の広島選挙区で、新人の河井杏里が現職の溝手顕正を追い落として当選できたのも、菅の依頼を受けた創価学会が全力で河井を支援したからだった。菅と学会のパイプが河井当選の決め手だったのだ。もっともその河井夫妻が公選法違反で逮捕されたため、広島県の学会関係者の間では、菅に対する怨嗟の声が上がっている。

 学会とのパイプが有効なのは、自民党内だけではない。日本維新の会代表の松井一郎は、公明党が成否のカギを握る「大阪都構想」の実現に向け、菅に公明党対策をたびたび頼み込んできた。公明党・創価学会とのパイプは、維新をも引き寄せる効果があるのだ。

学会の中枢と直結している

 自民党のベテラン職員は「菅は、かつての野中広務と同じような立場に立ったな」と評するが、そのパイプは野中以上に強い。

 それは菅が、2010年の参院選以降、創価学会で選挙対策を一手に担っている副会長で広宣局長の佐藤浩と極めて親密な関係を築き、その佐藤は会長の原田稔と主任副会長で本部事務総長の谷川佳樹という、今の学会を動かす中枢と直結しているからだ。

 創価学会の絶対的な指導者である名誉会長の池田大作が、体調悪化により人前から姿を消して10年余。もはや池田が指揮をとれなくなっていることは明らかで、原田と谷川が名実ともに学会を動かしている。

 そこに直結している佐藤と菅との約束は、そのまま創価学会と日本政府の約束になる。7年8か月の安倍政権の間に、公明党を「中抜き」して政府と創価学会の間で直接、物事が決まるという歪な関係ができているのだ。

 だが、こうした現状は、創価学会にとって政府・自民党とのパイプが菅だけになっているという脆さの裏返しでもある。

 自公連立政権発足当時の小渕恵三内閣では、官房長官の野中だけでなく、政権の後ろ盾だった元首相・竹下登や首相の小渕自身、それに古賀誠や大島理森などがそれぞれ学会や公明党の幹部とパイプを持ち、自民党と重層的な関係を築いていた。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/fe407655b9c620dec2dff1cfaa166d3e299965cc
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