>>9
第十章 宗ヘ防諜 一 宗ヘの善名の裏にスパイあり

救世軍事件は昨年七月、東京に於けるロイテル通信支局長英人コックス検挙事件直後行はれたもので餘りにも有名である。
當時陸軍省發表として
「東京憲兵隊は七月三十一日救世軍日本地方軍團に對し防諜上の容疑を以って
司令官植村益蔵、書記官瀬川八十雄外五名の幹部を目下取調中なり」
と公表してゐる。
更に陸軍當局談として
「宗教の、國民に必要なことは論ずる迄もないが、宗教の美名に隠れ、或は外國スパイの手先となり、
或は外國の對日思想謀略の前衛又は温床體となり、以って不知不識の間に國民の思想生活を害する事實については
思想防衛上重大なる関心を有する。軍は宗教そのものとは別個の問題として如何なる状況に於ても断乎たる措置を執らざるを得ない」
と國民全般に向って軍の立場を聲明したのである。
本事件も宗教自體に對して云々するものではないと明かに述べて居るが如く、我々も宗教そのものに関して云々するものではないが、
この宗教を逆に利用し、或はその組織を別の方途に傾ける處にスパイの乗ずべき必然性を有してゐる。

ではこの救世軍とは如何なる組織のもとに活動して来たかに就て、その一端を述べて見やう。