>>172
やむなく、3名が送り出されることになりました。

その日の夜のことです。
すっかり夜も更けたころ、病院のドアをたたく音がしました。
「こんな時間になにごとだろう・・・・」
堀婦長が玄関の戸を小さく開けました。
すると髪を振り乱し、全身血まみれになった人影が、
「婦長・・・」
とつぶやきながらドサリと倒れこんできました。

みればなんと最初に出発した、大島看護婦です。
たいへんな重体です。もはや意識さえも危うい。
全身11か所に、盲貫銃創と貫通銃創があります。裸足の足は血だらけです。
全身に、
鉄条網を越えたときにできたと思われる無数の引き裂き傷があります。
脈拍にも結滞があります。

なにがあったのか。堀婦長は、とっさに
「そうだ。 こうまでして ここに来なければ ならなかったのには、 理由があるに違いない。
 その理由を聞かなければ」
と思い立ちました。そして、
「花江さん!大島さん! 目を開けて!」と、大島看護婦を揺り動かしました。

重体の患者です。ふつうなら揺り動かすなんて絶対にありえないことです。
他の看護婦が
「婦長! そんなことをしたら 花江さんが!」と悲鳴をあげました。