地方百貨店の閉店が相次いでいます。8月末にそごう徳島店(徳島市)が閉店した徳島県は、今年1月に地場百貨店「大沼」が倒産した山形県に続き、全国で2番目の“百貨店空白県”となりました。そごう徳島店のケースから、百貨店と地方の街づくりの関係について神戸国際大学の中村智彦教授(地域経済論)がリポートします。【毎日新聞経済プレミア】

◇高速バスで神戸へ

 そごう徳島店は1983年、JR徳島駅前に開店し、当時は四国で最大規模の百貨店だった。しかし近年は集客に苦戦した。徳島市とその周辺には多くの大型ショッピングセンターができた。JR徳島駅から車で南東に10分ほどのところにイオンモール徳島、北に15分ほど行けばイオンタウン北島があり、さらにフジグラン北島、ゆめタウン徳島、ショッピングプラザタクトなどが市内外に点在する。

 徳島市のある中小企業経営者は、通勤も買い物も車がメインになって駅前に出ることが少なくなった、という。そのうえ「神戸と淡路、鳴門を結ぶ高速道路が全線開業した98年以降は、若者だけでなく主婦層も特別な買い物というと神戸に出かける」と話す。

 徳島から神戸方面に出るには、高速バスが早くて安い。約2時間で2000円台からある。徳島市内に通勤する男性会社員は「高速バスに乗る場合も、駐車料金の安い徳島市の北にある“徳島とくとくターミナル”に車で行きます。バスの始発の徳島駅前にはわざわざ行きません」という。駅前に人が集まる理由が減っていたことがうかがわれる。

 ◇地元の「要望」は……

 こうした状況の中、そごう徳島店の閉店は2019年10月に発表された。徳島市は、同年11〜12月に同店閉店後の駅周辺の魅力向上を図る目的で、地元の人たちを中心にインターネットと徳島駅前2カ所の街頭ヒアリングでアンケート調査を実施した。

 20年1月に公表されたアンケート結果の報告書によると、「駅前にどんな施設があればいいと思いますか」という設問(複数選択可)で最も多かった回答が「百貨店・デパート」の26.2%で、「百貨店・デパート以外の商業施設」が14.1%で続いた。一方、徳島駅前に来る頻度は「月1回程度」の29.8%が最多で、次いで「週1回程度」が21.8%だった。決して高い数字とはいえない。

 各地では、こうした地元の人たちの「要望」も理由の一つに、地元経済界が行政の支援を受けるなどして運営していた百貨店があった。熊本市の県民百貨店や、愛知県豊橋市のほの国百貨店、宮崎市のボンベルタ橘百貨店などだが、いずれも経営に行き詰まった。地元の人たちは「駅前に百貨店を」と要望するが、実際に足を運ぶ機会は少ないからだ。

 そごう徳島店の跡地利用は、閉店時点で具体的に決まっていない。同店が入っていたビルを管理する第三セクターは百貨店の小型店舗の誘致を目指すとしているが、新型コロナの影響もあり、簡単にはいかないだろう。

 ◇百貨店が街の核にはなりえない

 地方では、駅前の百貨店がなくなると集客力が下がり、中心市街地の衰退が進むなどといわれてきた。しかし、各地を実際に歩いてみていると、むしろ駅周辺の集客力が低下し、商店街の衰退が進む中、老朽化した建物に入居する百貨店が踏ん張るものの、ついには閉店する、というのが現実だ。徳島の場合も駅からほど近い商店街の衰退ぶりは激しかった。

 また、百貨店のビジネスモデルは店舗販売だけでなく、各地域の有力者や富裕層を対象にした外商を売り上げの柱の一つとしてきたが、それ自体も維持できなくなっている。

 こうした状況で、駅前のかつてのにぎわいを取り戻すといったノスタルジーにとらわれている場合ではない。老朽化した建物、採算の取れないビジネスモデルになった百貨店に、自治体が税金を投入したり、地銀をはじめとする地元経済界から出資を求めたりする時代ではないだろう。

 百貨店がなくなっても、地元の多くの人は生活に困らない。困らないから淘汰(とうた)されてしまう。それを、新陳代謝を進める新たなチャンスだと考えられるかが重要だ。中心市街地が商業地でなければならないという発想も変えるべき時代に差し掛かっており、地元の住民たちが新しい時代にどのような街づくりがふさわしいのかを過去にとらわれず考え直すタイミングだ。もはや「百貨店が街の核」にはなりえない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6fcd59e5c09b9729b8b545048deb5600728a5abf
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