新型コロナウイルスの感染拡大で、電車やバスの「密」を避けるため自転車通勤が増えている。菅義偉首相が官房長官時に「環境問題や災害対応から推進する」と明言し政府も後押しするが、事故の懸念から自転車通勤を禁じる企業もまだ多い。会社が認めない場合の「隠れ自転車通勤」のままでは事故時に労災保険を支給されない可能性もあり、社員の抱えるリスクは少なくない。(嶋村光希子、原田晋也、吉田通夫)

◆販売大手「あさひ」は売上が前年比4割増
 自転車販売大手あさひは、6月以降の売り上げが前年より4割増えた。東京都品川区で「旗参自転車商店」を営む宮崎鉄也さん(47)も「4月以降の販売は2割増えた」と話す。au損保の7月の調査では、都内で自転車通勤する500人のうち115人(23%)は「コロナ流行後」と答えた。

◆事故リスクから自転車通勤禁止の会社も
 だが自転車には事故の危険がつきまとう。「路上駐車を避けようと右に出たら、後ろからクラクションを鳴らされた」。江戸川区の女性社員(29)は訴えた。
 事故の危険を理由に自転車通勤を禁じる企業は多い。IT企業ワークスヒューマンインテリジェンス(東京)が顧客企業152社を対象にした調査では、自転車通勤を認める企業は5月時点で51%で、「認めていない」が35%だった。認めても「会社の責任範囲に課題が残り、積極周知していない」(電機メーカー)という企業もある。
 男性会社員(29)が「電車は感染が心配で内緒で自転車通勤している」と明かすように、「隠れ自転車通勤」の問題もある。
 会社が自転車を認めていない場合、懸念されるのが事故時のリスク。厚生労働省によると、けがをした場合、会社が禁じていても労働基準監督署に申請すれば労災保険の補償対象になる。ただ、会社が通勤中の事故と認定する必要はあり、社内規則の違反発覚を恐れ社員が申請しないことも想定される。百貨店勤務の女性は「けがをした同僚が会社から違反や交通費不正受給を指摘された」と話す。

◆自転車専用通行帯の整備進まず
 自転車は車道通行が原則だが、効率重視で造られてきた東京の道路は自動車中心で自転車が走りにくい。都内の国道と都道の計約2700キロのうち車道の一部を青く塗った「自転車専用通行帯」がある区間は昨春時点で2%の約70キロのみ。本年度の追加分も17キロだけだ。その通行帯にも「車が止まっていて危険」(三鷹市の男性社員)な場合がある。
 旧建設省出身で岩手県立大の元田良孝名誉教授は道路整備に加え「自転車と車双方に交通ルールの周知徹底が必要。自転車通勤を前提に規定を見直すなど企業も意識を変えなければならない」と指摘する。

東京新聞 2020年09月22日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/56928