新型コロナの「第二波」を迎え、欧州諸国が再び規制を強める一方、日常を維持しながら感染者数を低く抑えているスウェーデン。

同国の感染症対策の責任者アンデシュ・テグネルに、強制的なロックダウン(都市封鎖)をおこなわなかった理由や
ワクチンの有効性について英紙が取材したインタビュー記事をお届けする。


欧州の状況はより深刻に


夏以降、感染者数を低く抑えているスウェーデンに対し、イギリス、スペイン、フランスなどでは「第二波」への懸念が強まっている。
今後、他の欧州諸国の状況はどうなるのかと、スウェーデンの感染症対策の責任者アンデシュ・テグネルに訊ねた。

「他国は深刻な事態になりかねませんね。感染者の急増のブレーキとなる、免疫を持たない人が多い可能性が高いからです」

この「集団免疫を獲得する戦略」は、コロナ対策で大きな争点になったもののひとつだ。
テグネルは、感染率が低下するまでウイルスを蔓延させ、免疫を獲得させることがスウェーデンのコロナ対策の目的ではないと強調する。

それでもやはり、スウェーデン国内の感染者が減少している理由のひとつに集団免疫の獲得があげられるという。

テグネルは、集団免疫がないままで今後、他国はどうやってコロナの問題に対処するのかといぶかる。

スウェーデンのコロナへのアプローチはきわめて特異で、決断は政治家ではなく、国の公衆衛生機関が下している。
憲法によって、個々の公的機関に大きな権限が与えられているからだ。感染症対策の場合、その役割を担うのはテグネルだ。

「国の方針はテグネルの方針。政府は何の疑問も抱かずにそのまま受け入れている」と、彼を批判するある疫学者は言う。

テグネルは、世界がロックダウンに向かうなか、その流れに反する対応を打ち出して世界から注目を集めるようになった。
彼に、「流れに従ったほうが楽だったのではないか」と訊いた。すると彼は「おっしゃる通りです。でも私はひとりではありません」と答え、
政府や国民のみならず、公衆衛生局スタッフ500人の支援について律儀に列挙してみせた。

ヨーロッパで他にロックダウン(都市封鎖)しなかったのは強権国家ベラルーシだけだと私が言うと、彼は神経質そうな笑い声をあげ、
「それは比較にならないな」と言った。アメリカのリバタリアンと、イギリスのブレグジット支持派がスウェーデンの対策を強く支持していることに言及すると、
彼は居心地悪そうにひとことだけ返した。

スウェーデンは医療制度を維持しつつ、広義の公衆衛生を優先する対策をとっており、新型コロナによる死亡者数を低く抑え込もうとはしていない。
だから小学校の授業や屋外でのスポーツ、ヨガ、友人との飲み会や外食、買い物も禁じられなかった。

スウェーデンを訪問するのは半年ぶりだったが、すぐにいつものリズムが戻ってくる──
行きつけの店でレコードを漁ったり掘り出し物をいくつか買ったり、近くの知り合いとコーヒーを飲んだり、地下鉄で会議やホテルに向かったり。

その間、マスク姿の人をほとんど見かけなかった。スウェーデンに来た外国人は、パンデミックが起きていると気づかないだろう。

不特定多数の人がいる場所でマスクの着用義務がないのはスウェーデンを含め、ごく少数の国にとどまる。
イギリスやフランスではマスク着用が普及しているのに、とテグネルに水を向けてみる。

彼によれば、マスク以外ではスウェーデンでも「過剰反応」が見られるという。スウェーデン人も他の欧州人と同程度に旅行に行くのをとりやめたし、
ホテルやレストランも開いてはいるが、深刻な影響を受けているそうだ。

スーパーには列に並ぶ際の立ち位置を示す印があり、レストランには受け入れ可能な人数と提供可能な食事について細かい制限があるとテグネルは話す。

「私たちは感染する可能性が高い場所を特定し、そのリスクを軽減することに集中してきました。
レコード店に入ってレコードを買っても、それで何百もの人が感染することはありませんから」
https://courrier.jp/news/archives/213313/?utm_source=article_link&;utm_medium=longread-upper-button&utm_campaign=articleid_213312

8月の首都ストックホルムの様子。マスクを着用している人はほとんどいない
https://courrier.jp/media/2020/09/25205005/GettyImages-1228168892-1600x1068.jpg