ここ数年、トランプ大統領が訪欧する際には度々ロンドンやパリでは大規模な反トランプデモが起きていた。
リベラルなヨーロッパは排外的なトランプ政権を支持しない、そんな強いメッセージが投げかけられていた。

しかしながら、ここ最近欧州でもトランプを熱烈に支持する、陰謀論者Qアノンの支持者が急速に増えているという。
一体何が起きているのだろうか。

Qアノンとは、アメリカで存在感を増している陰謀論の支持者である。彼らの主張は次の通りだ。

世界のエリート層や民主党の重鎮たちからなる影の政府は、自らの利益のために子どもの人身売買等おぞましいことを裏で行う一方で、
世界を取り込もうと画策し、主要メディアもその事実をひた隠しにしているという。

そして、その「ディープステート」と呼ばれる陰の政府による凶悪な計画から世界を救えるのはドナルド・トランプ大統領ただ1人だと、根拠もなく主張する。

独紙「シュピーゲル」の報道によると、欧州の広い地域においてもこの狂気じみたQアノンに対する支持が急速に広まっているという。

彼らは、コロナウィルスはエリートたちが自らの富・権力を強化し、世界を従属させるために作り出した武器だと信じている。
ウイルスは、トランプ大統領を貶めてその再選を防ぐため、オバマ元大統領の支援を得て中国の研究室で作られたものだ、などというのだ。

Qアノンの発端は、4chanというアメリカ発のソーシャルメディア上の匿名投稿だったという。
豊かで権力を持つリベラルなエリートたちは少年少女を誘拐し、その血液を使ってドラッグを作っていると言う話が、まことしやかにささやかれ始めた。

この発想は、ユダヤ人がキリスト教徒の血を飲んで世界を征服しようとしているという、
何世紀も前に囁かれた古い反ユダヤ陰謀説を彷彿とさせる。アメリカではそんな話を信じたQアノンの支持者が、
その狂気じみた思想に基づいて襲撃事件等を度々起こしてきた。

欧州においては、パンデミックに襲われた2月以降にYouTubeやFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアを通じてこの思想が拡散され、支持者が急速に増えた。
特にドイツにおいては、アメリカ発のコンテンツをドイツ語で解説・提供するプラットフォームが、そのフォロワー数と共に増えている。

例えばYouTubeチャンネル「Qlobal Change」のフォロワー数は2020年初に2万5千人未満だったが、9月には10万人を超えた。
Qアノンの映像が広く拡散した理由の一つとして指摘されるのは、YouTubeのリコメンド機能によって、
コロナウィルスに関するデマやワクチンの危険性を訴える映像の関連映像としてQアノンの映像が続き、多くの人の目に触れやすかったことだ。

そして、イギリスでオンライン上の過激派の研究をするジュリア・エブナーによると、Qアノンは
オンラインプラットフォーム上で思想を先鋭化・過激化し続けており、国家の安全保障上の危機になりうるという。
オンライン上の妄想が支持者を集め、支持者が現実世界で行動を起こすというのだ。

実際、2020年初めにドイツのハナウ市で一般市民10人を射殺した後に自殺した犯人も、Qアノンに感化されていたことを示すYouTubeビデオを残している。
また、Qアノンの支持者たちはコロナウィルスパンデミックもデタラメだと考えるため、感染予防のための規制にも激しく反対する。
特に今年8月末にベルリンで起きた大規模な反コロナ規制デモにおいては、デモ隊の一部がドイツの連邦議会議事堂に突入しようとし、ドイツ社会を震撼させた。

その突撃を先導したのは前述のQlobal Changeのメンバーとされるタマラという女性である。
彼女が連邦議会議事堂に突入しようとソーシャルメディア上で呼びかけたのだ。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、ドイツにおいては極右勢力が初めにQアノンの思想に飛びついたものの、
現在では過激思想とは縁遠そうに思われる人々の間で支持が広がっているという。というのも、著名人がQアノンについて発信するようになり、より広い層に浸透しやすくなったからだ。
https://courrier.jp/news/archives/215342/