津波被害の恐れがある40都道府県のうち、避難対策を強化する「津波災害警戒区域」の指定をすべて終えているのは3割弱にとどまることが、国土交通省への取材でわかった。制度開始から9年近くになるが、指定による地価下落の懸念や切迫感の乏しさなどで進んでいない。

 2011年3月の東日本大震災を教訓に、国はその年の12月、津波被害を減らすための「津波防災地域づくり法」を施行した。都道府県に対し、想定される最大級の津波が来た時に浸水の恐れがあり、避難対策の必要がある場所を警戒区域として指定するよう求めた。ただ、警戒区域の指定は義務ではなく、市町村や地元の合意も前提となる。

 警戒区域に指定された場所がある市町村は、避難場所や避難経路、避難ビルを地域防災計画に盛り込むことや、ハザードマップの作成が義務づけられる。市町村が指定した学校や病院、老人ホームなどの施設は、避難計画を作ったり、避難訓練をしたりすることが必要になる。

 国交省によると、9月1日時点で40都道府県のうち、必要な場所すべての指定を終えたのは、山形、富山、愛知、京都、広島、鳥取、山口、徳島、福岡、長崎、沖縄の11府県。北海道や神奈川など6道県は一部の指定が終わっている。

 警戒区域の中でも特に危険度が高い場所は、建築制限を伴う「津波災害特別警戒区域」に指定できる。だが、これまでに特別警戒区域に指定されたのは、静岡県伊豆市の沿岸部の一例だけだ。

 国交省の担当者は「風評による地価下落などへの懸念が根強い」と、合意を得る難しさを説明する。

 指定が済んでいないある自治体の担当者は「洪水や土砂災害と違い、発生頻度が低い津波は切迫感を持たれにくく、メリットを感じてもらいにくい。対象地域に丁寧に説明していくしかない」と話す。

 警戒区域指定の前提となる津波…(以下有料版で,残り1214文字)

朝日新聞 2020年10月26日 10時00分
https://www.asahi.com/articles/ASNBT7HHPNBHUTIL00D.html?ref=tw_asahi