新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた飲食業界を支援するため10月1日から始まった「Go Toイート」。

 インターネット予約をした客に対し飲食代に応じてポイントなどが還元される仕組みだが、ポイントの予算が想定より早く底をつき、大手サイトのオンライン予約が相次いで終了した。制度の隙を突く「裏技」が現れるなど何かと話題を集め、「イート」自体は売り上げアップに貢献したとみられるが、小規模な店の中には恩恵にあずかれないところも。コロナ禍での支援策の難しさが浮かぶ。(荒船清太)

■1人で「10人予約」要求

 《10人で予約した事にしてくれとgotoeatのポイント不正利用を提案してきた方が来ました》

 10月15日、日本酒を提供するアンテナショップを東京都内などで展開する「名酒センター」が、ツイッタ−で発信したつぶやきに注目が集まった。

 「イート」では、購入額の25パーセントが加算されるプレミアム付き食事券が発行されるほか、予約に応じて昼は500円、夜は1000円分の飲食用ポイントが予約サイトを通じて付与される仕組みもある。仮に10人なら最大1万円分のポイントが取得できる計算だ。

 同店によると、1人で来店したこの客は、飲食をする代わりに、10人で店を予約したことにするよう要求。店側が断ると、500円分のつまみを頼み、飲食をせずに帰ったという。

 ただ、こうしたケースはこの1回のみで、落ち込んだ時期に比べて予約サイトを通じた客は10倍に増加した。同店の担当者は「イート自体にはいい効果があった」とする一方、「店側も結託してポイントを山分けしようと思えばできてしまう。不正をしている店がなければいいが」と話した。

■さまざまな「抜け道」

 「イート」をめぐる抜け道をつくような“テクニック”は、ほかにもある。

 「イート」の特徴は、通例のポイント制度と違い、現金ではなくポイントを使ってもポイントが加算される点だ。そのため、仮に1000円分のポイントを獲得して1000円分の飲食をポイントだけで行った場合、また1000円分のポイントがたまる、という状況になる。

 これを応用すれば、ポイントだけで延々と飲食が可能になる。当初、大手回転すしチェーン「くら寿司」での体験談が相次いだことから、ネット上では「無限くら寿司」と呼ばれ、話題を集めた。

 農林水産省のGoToEatキャンペーン準備室によると、予約サイト側に来店後の決済状況を把握する仕組みがないため、こうしたポイント制度になったという。同省担当者は「早期の需要喚起が目的で、既存のシステムを活用するのが前提だった」と説明する。

 ポイント以下の飲食をすることで差額を得る「錬金術」も一時話題になったが、こちらは予約サイト側が、ポイントが付与される飲食代金はポイント以上とするとルールを変更したことで、できなくなった。

■効果は明暗

 ただ、「イート」自体に客足を戻す効果があったことは明らかだ。

 国内の飲食店6000店舗以上に予約顧客管理システムを提供する「テーブルチェック」(東京)によると、1店舗あたりの1日の平均来店人数は、9月は35・4人と前年同月の6割程度だったが、「イート」開始後の10月には43・1人と77・7%まで回復。11月も8日時点で48・5人で79・1%となっている。

 テーブルチェックによると、主要4サイトの1店舗あたり予約件数は9〜10月に2〜3倍となった。ただ、キャンセル数も増加。都内のすし店ではこの1カ月で7件ほど無断キャンセルがあったといい、店の関係者は「イートには大変助けられているが、カード情報を登録しないと予約できないなど、無断キャンセルを抑える仕組みも導入してほしい」と注文をつける。

 予約サイトは、来店客数に応じて200円程度の手数料を取るところも多く、サイトを通じた予約を受け付けていない「街の定食屋」のような小規模店舗にとっては、メリットは享受できていない。

 東京都中央区の「亀印食堂」も、そんな店の一つだ。女性店主は「定食屋を予約する人はいない。特に夜に来るのは会社帰りの一人客くらい。もうだめよ」と、力なく話した。

2020年11月17日 6時1分 産経新聞
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