19億円という金額もさることながら、生保レディーの年齢が89歳と聞いて、腰を抜かした人が多かった。山口県周南市で起きた第一生命の巨額詐取事件は、被害者弁護団も結成され、少しずつ、「女帝」と呼ばれた老女の素顔も見えてきた。

 この「女帝」は、第一生命の西日本マーケット統括部徳山分室に籍を置く営業社員。いわゆる地方の一介の生保レディーにすぎなかったが、ケタ違いのヤリ手だった。

 ある知人は、「今から25年前くらいから知っている。とにかく、すごいおばさん」と素顔を明かす。

 おばさんの営業はタクシーを借り切り、顧客を回る。地元の有力企業に行くと、顔パスで受付を通過。社長室や支店長室などにも、平気で入っていく。接待のため、地元の有名料理店なども、常連だったという。

 顧客の冠婚葬祭には、必ず顔を出し、年賀状は段ボール箱が満杯になるほど、送っていたそうだ。

 第一生命で女性と一緒に仕事をしたことがある元同僚のセールスレディーはこう話す。

「どうやればあれほど売ることができるのか、信じがたいほど契約をとってきた。第一生命の社員も、伝説のおばさんって感じの、畏敬の念で女性を見ていました」

■在勤パーティーには地元の名士がズラリ

 おばさんが女帝に上り詰めるきっかけは、地元・山口銀行の後の頭取となる人物と親しくなったことだといわれる。この頭取の紹介から、銀行の支店長、地元財界、医師会などにどんどん人脈を広げ、接待などで親交を深め、契約を増やしていった。

 こうしてトップセールスレディーになった女帝は、全国で4万人以上いるというセールス担当者の中で、極めて成績が優秀な人だけに与えられる「特別調査役」とか「上席特別参与」という肩書も自慢していた。

 地元の市議が偶然、飲食店で女帝の姿を見かけた時のことだった。市議は立ち上がり、女帝に駆け寄り「大変、お世話になっております」と最敬礼し、女帝が店を出ると車が見えなくなるまで、頭を下げたままだったそうだ。

「おばさんと親しくしていれば、選挙で『ちょっと票を上積みしたい』と頼めば『まかしてよ』と言って、何軒も戸別訪問先を用意してくれたりするので、頭が上がりません」(前出の知人)

 生命保険の一介のセールスレディーが在勤50周年のパーティーを開催したのは2016年2月のこと。地元の政治家や有名企業の社長ら、名士が勢ぞろい。当時は県議だった藤井律子周南市長もパーティーに来ていた。

 とはいえ、50年以上もトップの座にふさわしい新規契約を取り続けることは無理。

 女帝は10年ほど前から「特別枠」という投資話を顧客に持ち掛け、不正に手を染め、少なくとも24人から19億5000万円をだまし取っていた。この数年はカネが回らなくなり、事件化は時間の問題だったのだが、同じ頃から89歳女帝はひどい物忘れが始まっていたというから、事件全容の解明にはまだまだ時間がかかりそうだ。

11/21 18:06
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