新型コロナウイルス感染症対策を助言する専門家組織の分科会(尾身茂会長)が、政府との認識のギャップに直面している。「第3波」感染の急拡大で医療現場が緊迫している事態を受け、踏み込んだ感染抑止提言を繰り返すが、社会経済活動の回復を重視する政府や都道府県を大胆に動かすところまでには至っていない。

 「大事な局面なので、メンバーにも来ていただいた」。25日夜に開いた記者会見で、分科会が取りまとめた提言を発表した尾身氏はこう述べ、全員の総意である旨を念押しした。

 ≪対策について、十分に共有されていない≫≪都道府県と政府は連携して、具体的な取り組みを迅速に進めることが求められる≫−。

 提言には、現状への焦りと強い催促が盛り込まれた。分科会は前回20日、観光支援事業「Go To トラベル」の見直しなどを政府に求めていたが、十分に酌まれていないとの不信が募る。メンバーの一人は「官邸と共通認識がなかなか醸成できない」と打ち明けた。

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 分科会が政府に強い防疫措置を求める背景には、医療提供体制の逼迫(ひっぱく)がある。

 政府も「最も重視している」(西村康稔経済再生担当相)病床の使用率は、北海道、首都圏、関西などで急上昇。特に重症者用ベッドの数字は北海道、愛知、大阪で、緊急事態宣言に相当する「ステージ4」の指標の一つである50%に迫る。兵庫では既にこれをオーバーした。

 より厳しいのが現場の医師、看護師の確保だ。新型コロナ専門病床の人員を増やす必要があるが、心身の疲労蓄積による離職者が目立ち、通常の診療業務まで回らなくなる影響が一部で出始めている。分科会内は「医療崩壊の第一歩」(武藤香織氏)、「今のままでは状況を乗り切れない」(太田圭洋氏)との認識が支配的になりつつある。

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 ただ、前身の専門家会議が6月末、十分な説明なしに一方的に廃止された苦い経験があるため、現在の分科会が政府の顔色をうかがわざるを得ない側面も。25日の提言には、最終的に「必要な感染防止策が行われない場合は…」「なるべく控えること」など、政府に柔軟な判断の「のりしろ」を残す表現が入った。

 関係者によると、分科会と菅義偉首相との意見交換回数は、安倍晋三前首相の時と比べて減っているという。この温度差に、あるメンバーは「正直、手詰まり感がある。政府の様子を見て、また意見を申し述べていくしかない」。結果的に分科会は、会見で国民に直接、意識の転換を呼び掛けるしかなくなっている。

 政府高官は「何が何でも命を守るのなら、強い措置を取るというのも一つの意見。けれども、経済がないと国は生きていけないのもまた事実。だから、そのはざまでどうバランスを取っていくかが難しい」と話す。

 (河合仁志、久知邦)

西日本新聞 2020/11/27 6:00
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