【ベルリン=石川潤】欧州中央銀行(ECB)は10日開いた政策理事会で、半年ぶりとなる追加金融緩和を決めた。コロナ危機に対応する資産購入の特別枠(PEPP)を1兆8500億ユーロ(約230兆円)へと、現在の1兆3500億ユーロから5000億ユーロ(60兆円)増額することが柱だ。同枠での資産購入の期限も2021年6月末から22年3月末へと延長する。政策金利は据え置いた。

ECBは銀行にマイナス1%という超低利で資金を貸し出す制度(TLTRO)については、期限を22年6月まで1年延長する。銀行の資金繰りへの不安を和らげ、資金の目詰まりを防ぐ狙いがある。


ECBが追加緩和に動いたのは、新型コロナウイルスの感染が再び広がり、景気の二番底への警戒が強まっているためだ。ワクチンが行き渡るにはなお時間がかかり、その間、ユーロ圏経済には高い不確実性がつきまとう。ECBは10日公表した声明文で、今回の政策変更の狙いが「良好な金融環境の維持」にあると明記した。

欧州各国は10月以降、新型コロナの第2波を封じ込めるため、外出制限などのロックダウン(都市封鎖)に相次いで踏み切った。感染者数の増加にはブレーキがかかり始めたが、その代償として景気は再び減速し、2020年10〜12月のユーロ圏の成長率はマイナスに転じる可能性が高まっている。

消費者物価上昇率も8月から4カ月連続で前年比マイナスに沈んでいる。景気の二番底で個人消費や賃金上昇にブレーキがかかれば、ECBの目標である物価上昇率「2%近く」の実現はますます遠のきかねない。

さらに今回の緩和の背景には、米国の金融緩和の長期化で進むドル安・ユーロ高もある。ユーロ高が進めば、輸入物価の下落を通じて物価は上がりにくくなる。ECBは声明文に「為替相場の動きを引き続き注意する」という一文を盛り込んだ。

危機の長期化は、企業倒産や失業の増加につながる。銀行が不良債権の増加を恐れて貸し出しに慎重になるリスクも高まる。追加の金融緩和で金利を低く抑え込み、需要拡大につながる財政出動や危機後を見据えた民間投資を呼び込む狙いもある。

もっとも、肝心の各国政府の動きには不安もある。英国と欧州連合(EU)の将来の関係のための交渉は難航しており、企業心理を押し上げるどころか先行きの不透明感を強めている。

ECBの総資産はラガルド総裁の就任から1年余りで5割近く、2兆ユーロも膨れ上がった。あふれるマネーは株式や不動産、暗号資産(仮想通貨)などに流れ込んでおり、資産バブルなどの問題が深刻化しかねない危うさもある。

日本経済新聞 2020年12月10日 21:50 (2020年12月10日 22:31更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD109SF0Q0A211C2000000