もっとも懸念されるのが、高齢者の一人暮らしだ。コロナ禍のなかで、閉じこもり生活を送っている高齢者は多い。
今年の年末年始は、おそらく「里帰り」が自粛されるので、田舎に高齢の一人暮らしの親を抱える方は不安だろう。

一人暮らしを続けると、妄想障害を起こすことがある。

認知症の初期症状とされる、「物とられ妄想」はその典型だ。
たとえば、預金通帳の置き場を忘れたにもかかわらず、預金通帳を盗まれたと思い込み、銀行に電話をかける。
娘に連絡してくる。あるいは、隣人を犯人と思い込み、文句を言いにいく。

コロナ禍になってから、こうした例が頻発している。

ともかく、閉じこもることがいちばんよくない。人と接触するためではなく、自分のために外出する、近所を散歩する。
そういうことを心がけないと、メンタルがやられる。

テレワークになって家で仕事を続け、「コロナうつ」になってしまったという例もある。
これは、「オン」と「オフ」の切り替えができなくなったため、脳が混乱し、ストレスが溜まったからだ。
子供や妻に対するDVも増加している。

また、最近の患者さんの相談で目立つのは、「神経性不眠」が増えたことだ。

「入眠障害」(寝つきが悪い)と、「熟眠障害」(眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める)が圧倒的に多い。
ある高血圧の70代後半の女性患者は、「コロナにかかったら高齢者は死ぬというので、考え出すと不安で眠れない」と訴えてきた。

不眠症は元になる不安を取り除かないと根本的には治療はできない。
ただいまは、新しいタイプの依存性と副作用が少ない睡眠薬、たとえば「ロゼレム」と
「ベルソムラ」があるので、それを処方している。

いずれにしても、コロナ禍が収束しない限り、メンタルを病む患者さんは増え続けるだろう。


■吉竹弘行(よしたけ・ひろゆき) 1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、
浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。
http://www.zakzak.co.jp/lif/news/201212/hea2012120001-n1.html