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重量野菜 深刻な低迷 産地苦境「箱代にすら…」 神奈川県三浦市

深刻な相場低迷で、ダイコンやハクサイなど重量野菜の産地が苦境にあえいでいる。秋以降の好天で生育が進み、潤沢感から12月に入っても、取引価格は過去5年間の最安水準で推移。再生産価格とは程遠い値を付け、農家の収入は大きな痛手を受けている。自主的に出荷量を抑える産地も出てきており、安定供給を支える生産体系が揺らぎかねない状況だ。

苦渋の出荷抑制
 秋冬ダイコンの生産が全国一を誇る、神奈川県三浦市。東京湾や相模湾に面した台地に広がる畑の脇に、出荷抑制のため収穫したままのダイコンが並ぶ。

 三浦市農協の組合長を務める杉野幸雄さん(57)は妻、息子と1・8ヘクタールでダイコンなどを生産する。「台風被害もなくこれだけ上出来な年はない。手塩にかけて育てた野菜が、箱代にもならんとは」。厳しい現実に、悔しさをにじませる。

 全国大手7卸のデータを集計した日農平均価格では、12月中旬(15日まで)のダイコンは平年(過去5年平均)比35%安の1キロ44円。主産県が連携して出荷を抑えたが、底値を付けた前月末からは小幅の上昇にとどまっている。

 同農協は毎年のように起こる天候不順に備えて、供給不足に陥らないよう余裕を持たせて作付けしている。主要品目の安定供給に責任を持つ産地としてのリスク回避策だが、今季は作柄に恵まれた結果、相場が急落。極端な豊凶と相場の乱高下に、振り回されている。

 需給改善へ、同農協は苦渋の判断を迫られた。12月中旬、各地区の農家代表との会合で、もう一段の出荷抑制を要請した。既に3L級の太物は出荷を控えていたが、M・S級の細物も対象に追加。抑制の割合を2割に引き上げた。国の緊急需給調整事業を活用し、出荷を後送りする措置の費用に充てる考えだ。

 有力産地でも、近年は生産縮小が進む。三浦市の2019年の秋冬ダイコン作付面積は、661ヘクタール。10年で9%減った。収穫してトラックに積み、水洗いした上で箱詰めする一連の作業は負担が大きく、他品目への転換も進む。そこに相場低迷が追い打ちを掛ける、厳しい情勢だ。

 同農協の和田健彦共販部長は「(出荷の安定を図る)指定産地として生産規模を維持しないといけない」と強調。安定した価格で販売できる実需者との契約取引を増やすなど、農家の収入安定につなげたい考えだ。

 12月以降、気温低下で果菜類などの相場は回復傾向にあるが、重量野菜は依然厳しい。中旬の日農平均価格は、ハクサイは平年の48%安、レタスは38%安、キャベツは34%安に落ち込む。

 14日には、政府の観光支援事業「GoToトラベル」の全国一斉停止が決まり、逆風が強まる。仲卸業者は「本来は書き入れ時だが、大口注文ががくんと減った」と落胆。産地も流通業者も厳しい年末商戦を迎えている。

2020年12月17日 日本農業新聞