【ウイルスは撲滅できない】福岡伸一(生物学者)

ウイルスは、さまよいつつ、数多く存在している。ウイルスは高等動物が登場した後に「遺伝子の一部」が外部に飛び出したものとして、あらわれた。
つまりウイルスは、もともと「私たちのもの」だったのだ。その存在は、高等動物の進化のプロセスの上に、温存されたのだ。
ウイルスこそ我々の進化を加速しているのである。
だから私たちの細胞は、極めて積極的にウイルスを招き入れているとさえもいえる(まるで友だち関係にあるかのように)。
なぜ私たち側(宿主)が、ウイルス側(家出人)を、優しく迎え入れているのか。それは遺伝情報の伝達に深く関わっている。親から子に遺伝する情報は垂直方向だが、ウイルスのような存在は、情報は水平方向に、さらにいうならば、種を超えて伝達し得るからだ。
なので、生命の進化に「不可避な」一部であるウイルスを、根絶や撲滅はできないのだ。
これまでも、これからも、ウイルスを受け入れて、生命自らが、自らを壊しつつも常に作り替えて、あやういバランスの上に保ちうる動的平衡≠フ流れを生きていくしかない。