10日午後8時50分ごろ、JR折尾駅(福岡県北九州市八幡西区)の北口改札近くに駅員の大石浩和さん(59)が立ったそのときだ。近づいて来た女性に「ここを出たらどちらに行けますか」と聞かれた。黒いコートにズボン姿。30分前、警察から不明者情報を受け、各駅に伝えるJR九州の担当部署から電話で聞いたばかりの特徴と同じだった。

 JR九州の情報によると女性は40代で、過去に「電車に飛び込みたい」などとほのめかしていたという。大石さんが「失礼ですが」と名前を尋ねると女性は改札の外へと歩き出した。

 このままでは見失ってしまう。夜間のため事務所にいる駅員は大石さんを含め3人だけだ。焦っていると、みどりの窓口にいた千田浩輝さん(24)が女性を追いかけ、別の男性駅員が折尾署に通報した。

 走る女性に千田さんが追いついた。腕をつかんで止めるわけにはいかない。「寒いので駅で暖まりませんか」「駅で道順をご説明します」と優しく語りかけた。千田さんは「自殺をほのめかしていると聞いていたので保護できるようになんとか時間を稼ぎたかった」と話す。

 午後9時すぎ、女性は折尾駅前交番の警察官に保護された。女性は10日の昼、両親と一緒に市内の病院に行った帰りに行方がわからなくなっていた。両親が午後8時ごろ、行方不明者届を出した。

 折尾署は24日、大石さんと千田さんに感謝状を贈った。末広久夫署長は「行方不明者の捜索には公共交通機関の協力は必要。本当にありがたい」と感謝した。大石さんは「日頃からお客様に困っていることがないかなど声かけをするようにしています」、千田さんは「無事にご家族のもとに戻られてよかった」と語った。

朝日新聞社

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