※西日本新聞

 一日も早く感染を収束させ、日常を取り戻すため、お力をお貸しください−。記者会見に臨んだ菅義偉首相は、国民に向かい懇願した。25日、新型コロナウイルスの国内感染者は3800人を超え、死者も62人とそれぞれ過去最多を更新。国民の命と暮らしは、この年末年始にウイルス拡大カーブを抑制に転換できるかに懸かる。政権の命運も、またしかり。首相の本気度は国民に伝わったか。

 「私からあらためてお願いがあります」

 午後6時に官邸で始まった会見で、首相はこう切り出した。「ウイルスとの戦いが始まって1年。初めての冬を迎え、感染者が3千人を超える高い水準が続き、皆さま方のご不安も高まっているものと思います」と厳しい現状認識を示す。その上で、家族や友人との集まりを控えて「静かな年末年始をお過ごしいただきたい」と繰り返した。

 国民が恐ろしい感染症と立ち向かい、苦しむ中で、批判を招いた自らの言動も省みた。

 自民党の二階俊博幹事長ら8人での会食について、首相は「大人数での会食を避けることを要請する立場にありながら、深く反省しています」。観光支援事業「Go To トラベル」を巡り、「『感染対策とGoToを同時に進めるのは分かりにくい』とのお叱りをいただいた」と、国民の声が届いていることをアピール。説明が不十分だったとし、「今後、国民と丁寧にコミュニケーションを取りたい」と続けた。

 温和な印象が定着しているドイツの指導者・メルケル氏が、感情を高ぶらせ拳を激しく上げ下げさせながら、クリスマスの対策強化を国民に求めたような「動」はない。政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長と並び、日本の首相は約1時間にわたり、淡々と語った。

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 「リーダー自らが表に出て、政府の本気度を示す必要があった」。外遊先などを除けば、異例とも言える年の瀬の首相会見の真意を、周辺はこう解説する。裏返せば、国民に危機感を共有してもらい、ウイルス抑止に向けて意識と行動を変えてもらう「リスクコミュニケーション」が機能していないのだ。

 冬場に入り、全国に急拡大したコロナ「第3波」。新規感染者が3千人を突破した後の12月14日、首相はようやくGoToトラベルの年末年始の全国一斉停止を判断し、国民心理に「自粛」を波及させようとした。だが、奏功しなかった。その後も、東京都内の主要駅や繁華街などでは人出が増える地点が続出。「やれることはやってるんだが…」。政府高官の独り言に、日一日と手詰まり感が濃くなっていく。

 政権の船出時に70%前後だった支持率は、ウイルスの猛威と反比例するように下落。一部の世論調査では4割を割り込んだ。憲政史上最長を記録し、「1強」を誇った安倍晋三前政権も、コロナ対応がうまくいかなかったことで暗転した。政府関係者は率直だ。「すべてはコロナ次第だ。感染を抑え込めなければ早晩、国民の期待を失うだろう」

 この日の会見で、国民に訴え、呼び掛け、頭を下げた首相。再度の緊急事態宣言発出をしなくとも、感染抑止は「私は可能だと思っています。必ず理解をいただける」と述べた。「勝負の年末年始」が、国民と政権を待つ。 (一ノ宮史成、前田倫之)

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