フェニックス(米アリゾナ州) 23日 ロイター] - 米アリゾナ州マリコパ郡の州都フェニックスに住むナディーン・ベンダーさん(43)は、小さなぼろぼろの2人用テントで暮らしている。その周りには使い古されたアマゾンの段ボール箱がいくつもある。夜が明けると、それらの箱を1つ1つ念入りに調べ、自分の生活用品が何も盗まれていないか確認する。それが彼女の日課だ。


 12月23日、米アリゾナ州マリコパ郡の州都フェニックスに住むナディーン・ベンダーさん(43)は、小さなぼろぼろの2人用テントで暮らしている。フェニックスの「テント村」で18日撮影(2020年 ロイター/Michelle Conlin)
やせ細った姿のベンダーさんは、クリスマスの予定を聞かれると、マスクを着けたまま「その話題を見聞きしないようにすること」と語り、泣き出した。

フェニックス中心部に7カ月前に設置された路上生活者(ホームレス)用のテント村が彼女の生活拠点だ。道路1本を隔てた向こう側には、高層マンションや高級レストランが立ち並ぶ。もともとは駐車場だったが、新型コロナウイルスの感染大流行中にホームレスが急増したため、彼らや彼女らの安全な距離を確保する必要から、郡当局が居住拠点を設けた。

フェンスと有刺鉄線に囲まれた敷地のアスファルト面には、1世帯ごとに12フィート四方の空間がペンキで表示され、相互の距離をできるだけ取るよう求められている。

<コロナでホームレス急増>

同郡の路上では今、7500人以上のホームレスが暮らす。一方で同郡のコロナの死者も5000人に達している。

ホームレスは近年、増加が続いていたが、人数はコロナで一気に膨れ上がった。その悲惨さはフェニックスだけでなく、米国内の多くの都市でも目に見えて広がっている。

新型コロナの脅威は最も弱い人たちを感染させ重症化させていくことだけではない。何百人もの雇用を失わせ、失業者が家の強制立ち退きに直面する事態になっている。専門家によると、このままでは破滅的な住宅難民問題が起こり、今以上にさらにホームレスが生まれかねない。

感染対策のロックダウン(都市封鎖)の影響で各自治体は税収の基盤がひどく損なわれているため、ホームレス支援団体は、連邦政府が手を差し伸べるべきだと主張する。すぐに必要な資金だけでも115億ドル(に上る見込みという。

米議会は21日に9000億ドル(約93兆2200億円)規模の追加経済対策を可決したが、新たなホームレス支援予算は盛り込まれていない。一方で、3月に成立したコロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法などを通じた住宅支援の40億ドルは底を突こうとしている。

全米低所得者向け住宅連合(NLIHC)事務局長でバイデン次期大統領の政権移行チームに助言したダイアン・イェンテル氏は「単なるパンデミック(感染の世界的な大流行)の話ではない。問題はパンデミックがもたらす金銭的な影響に加えて、連邦政府による包括的対応が全く欠如していることだ」と訴える。

バイデン氏のチームはコメント要請に応じていない。ただ陣営は公約の一つに、手ごろな価格で買える住宅の危機的な不足の解消を挙げていた。そうした住宅建設とホームレス問題解消のため10年間で6400億ドルを投じるとしている。

ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の教授で、医療と住宅難に取り組む新プロジェクトの座長を務めるハワード・K・コー博士は「現代において、住宅難は健康面の公平性にかかわる最も切迫した課題なのに、事態は悪化しようとしている」と警告した。


<強まる立ち退き圧力>
(略)
支援団体によると、ニューヨーク市内のホームレスのコロナ死亡率は、そうでない人に比べ78%も高い。

カリフォルニア州ロサンゼルス市では、一部の市議会議員が大人数の収容が可能な大規模展示会・会議用施設をホームレスの避難場所として活用する計画を進めようとしている。しかし既に実行した同州サンディエゴ市では、そうした大規模施設でコロナ感染が拡大し、陽性者が利用者と職員で計190人出た。

ジョンズ・ホプキンス大学など5大学の11月30日の報告によると、CDCが9月に立ち退き執行を禁止する前、夏場にかけて執行猶予期限を迎えた27州では、新型コロナ死亡率が5.4倍に跳ね上がった。

<人呼んで「トランプ村」>(略)
(Michelle Conlin記者)

ロイター2020年12月26日8:10 午前UPDATED 12時間前
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-usa-homelessness-idJPKBN28Y0XB