卵子の凍結保存で将来の妊娠・出産に希望をつなぐ独身女性がいると聞き、気になっていた。子どもは授かりものだと言うし、否定的な意見もあるけれど、28歳を過ぎた記者も「産み時」について考えるひとりだ。経験者と専門家に話を聞いた。

「未来の可能性」16個の卵子を凍結、費用は140万
 東京都の独身女性A子さん(35)は今年、計16個の卵子を凍結保存した。

 卵子の老化は30代後半から加速し、妊娠・出産率は一気に低下する――。昨年たまたま目にした卵子凍結のウェブ広告をきっかけに、具体的に考え始めた。

 新卒で大手人材派遣会社に就職し、海外留学などを経て外資系企業に転職したA子さん。結婚・出産は「ご縁があれば」と思っていたら、あっという間に30代半ばが迫っていた。「今お付き合いしている人はいないし、すぐ結婚したいという強い願望があるわけでもない。でもこのままだと、自分の子を持たない未来になるのかな……」

 大学で遺伝子の研究をしていたこともあり、若い卵子のほうが出産につながりやすく、凍結保存は「合理的だ」と思った。検査で、卵子の数が平均より多く、1度の手術である程度の数が採れそうだとわかった。

 「自分の子どもを持つという未来の可能性を残すために、今できることはしておきたい」。職場で40代の先輩たちが不妊治療で悩むのを見てきたことも決心した理由のひとつだ。

 自然妊娠で自分を産んでくれた両親には猛反対された。

 大学病院で卵子凍結を行ってきた経験がある菊地盤いわほ医師が院長を務める「メディカルパーク横浜」で5月に10個、9月に6個の卵子を凍結保存した。2回の手術と4年間の保存費用も合わせて、一連の費用は約140万円だった。

 採卵までの1〜2週間は、卵子を適切な大きさや数に育てるため、毎日決まった時間にホルモン剤を自ら腹部に注射する。個人差はあるが、A子さんの場合は副作用でむくみやだるさが生じ、体重が2キロ増えた。頻繁な通院も必要で、「リモートワーク中だったから、なんとか乗りきれた」という。

 A子さんは「私は経済的に余裕があり、身体的にも性格的にも卵子凍結に適していると思ったので、やって良かったと思います。婚活もがんばらなくちゃっていう気持ちにもなりました。でも、決して負担は軽くはないので、推奨するわけではありません」と強調した。

過度の期待は危険、日本産科婦人科学会「推奨しない」
卵子凍結については事前にきちんと説明を受けておきたい(写真はイメージ)
 もともと卵子の凍結は、病気治療の過程で妊娠できなくなる恐れがある女性に限って認められていた。日本生殖医学会が2013年、健康な未婚女性が将来の出産に備えるために行うことを認める指針を発表した。一方で、日本産科婦人科学会(日産婦)は、高齢出産を助長しかねないとして「推奨しない」立場だ。

 日産婦に登録している卵子凍結の実施施設は年々増え、今年9月時点で133施設ある。このうち健康な未婚女性のケースを扱う施設数は明らかではない。

 「後からすぐに出産できる」「産み時が選べる」と、過度に期待するのは危険だという指摘がある。

 東京大学医科学研究所先端医療研究センターの神里彩子准教授は「まだ新しい医療技術で、凍結卵子で出産につながる確率や、遺伝子に与える影響などについてはまだ十分に検証されていません。ひとつの選択肢ではあっても、安易に『卵子凍結すれば大丈夫』と考えるのは危険です」と警鐘を鳴らす。

 体外受精の際に、凍結した卵子すべてが受精卵になるとは限らない。受精卵を子宮に戻す時期が高齢になるほど妊娠の確率は下がり、流産のリスクや高齢出産の危険性が高まる。医療機関による技術差もあり、採卵の過程で臓器が傷つくなどの可能性も軽視できない。

 神里さんは「高額な費用やリスクを負っても出産につながる保証はなく、何か起きても『自己責任』とされかねません。医療機関は正しい知識を十二分に伝え、女性もしっかり検討する必要があります」と話した。

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