戦闘機が離着陸する基地や演習場を抱える自治体が“迷惑料”として受け取る防衛省の交付金が増え続けている。2020年度は全国120市町村に約227億円が支払われ、九州・沖縄には約67億円が配分された。当初「箱もの」に限った使い道は、11年度から防衛と無関係の医療費助成など住民サービスに広がった。「融通が利く」と歯止めが利かない使途、不透明な算定基準、依存する自治体…。九州・沖縄の基地負担が増える今、住民の暮らしに深く染み込む「防衛マネーの正体」を追う。

 昨年12月、福岡県行橋市の複合施設内にある図書館。図鑑などが並ぶ書棚に「短編小説24万作家名目録」(4万1800円)、「全国名産大事典」(3万9600円)の2冊があった。

 市は同年4月の開館に合わせて図鑑や事典など1337冊を約1320万円で買い、うち1200万円は19年度の交付金を充てた。理由は「値段が張るから」(市教育委員会)。前述の2冊は高価な書籍のトップ2。交付金での図書購入は「まれなケース」(九州防衛局)という。

 同県築上町の災害廃棄物処理計画は19年度の交付金約380万円で策定。大分県玖珠町は町立塾の運営費を交付金2500万円から手当てする。同県由布市は高校生まで医療費を無料にしている。

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 基地によって受ける影響を考慮し、生活環境の改善や開発に寄与する−。

 1974年度に制度が始まった特定防衛施設周辺整備調整交付金(特防交付金)の目的は法律でこう規定している。米軍や自衛隊の基地、演習場などのうち防衛大臣が「特に配慮すべき」施設と自治体を決める。

 当初の53施設の94市町村から、現在は73施設の120市町村。九州は9施設の20市町、沖縄は14施設の18市町村が対象だ。

 交付金を使うには、県を通さずに市町村が直接防衛局に申請する。政令で教育や医療、福祉など幅広い事業に充てられる。ある市の担当者は「使い勝手がいい」と話す。九州防衛局は防衛と無関係の事業も「市町村が事業を選択してやっている」と問題ないとの立場だ。

 全国の交付額は20年度、創設時の45倍に膨らみ過去最多を更新。防衛省は「今後見込まれる新たな航空機の配備などを考慮した。額の増減をもって(周辺地域の)負担の傾向を判断するものではない」と説明。額の妥当性は「政令などに基づき算定した」とだけ答えた。 (梅沢平、竹中謙輔)

税金配ったごまかし

 基地関連の財政問題に詳しい京都府立大の川瀬光義教授(地方財政)の話 基地とは直接関係のない使い方を可能にしているのはおかしい。医療費の助成など幅広い住民サービスに交付金が使われているが、公共性が高い事業であれば厚生労働省など担当省庁が全ての自治体を対象に手当てするべきで、防衛省の仕事ではない。交付金の総額を決める基準がないのも問題。必要性のある事業にかかる金額を積み上げて編成する予算運営の原則から逸脱している。本来なら基地を置く理由を政治が言葉で説明を尽くすべきで、交付金を配ることでごまかそうとしていると言わざるを得ない。

西日本新聞 2021/1/4 6:00
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