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バッテリーは生産時に多くの二酸化炭素を排出することや、火力発電が主流である限り二酸化炭素を排出するのがクルマのマフラーから火力発電所の煙突に替るだけ、という論はいまや多くの人が知るところとなっている。細かく言えば日本の現在の電源構成でもEVはハイブリッド車よりわずかに有利だが、それは枝葉の議論であり、「二酸化炭素を一切出さない」という主張の証明にはならない。もちろん再生可能エネルギーを増やしていけばBEVのエコ度は上がっていくが、国の電源構成を変えるのはそう簡単なことではない。太陽光発電や風力発電は時間をかけ徐々に増やしていくべきだが、急ぎすぎれば電気代は跳ね上がり、大停電のリスクも高まる。つまりBEVは再生可能エネルギー発電と歩調を合わせ徐々に増やしていくのが正解なのだ。
BEVシフトはもはや世界の潮流論のウソ 
しかしそれでもBEV至上主義者は譲らない。今度は「たしかにそうかもしれないが、世界の潮流はもはやBEVであり、その流れは誰にも止められない」というきわめて非科学的な論理を展開してくる。バイデン政権についてはこの原稿を書いている時点で明確な政策が見えていないが、BEV普及に積極的なカリフォルニア州の案を採り入れながら他州にも考慮した政策をとってくる可能性が高い。BEVには有利な展開だ。
一方、すでにエンジン車に厳しい政策を実行している欧州では現にBEVの販売台数が急速に伸びている。だが、この議論でBEV至上主義者がよく使う「もはやEVのシェアは10%に達している」という数字は正確ではない。10%という数字にはガソリンさえ入れれば走ることができるPHEV(プラグインハイブリッド)が含まれていて、BEVのシェアは5〜6%に留まるからだ。ちなみにコロナ対策予算をBEVの購入補助金に適用したドイツでは最大110万円もの補助金が付く。フランスはさらに手厚く、購入者の所得や車種によって補助金は最大140万円に達する。これはもう買わなきゃ損と言いたくなるほどの好条件である。

さらに言えば、CAFE(企業別燃費規制)で巨額な罰金を支払うぐらいならBEVの価格を下げて売りさばいた方がマシというメーカー側の事情もある。ホンダeの欧州価格は日本価格より100万円も安い。正直、これだけの大盤振る舞いをしてくれれば私もBEVを買うかもしれない。逆に言えば、ここまでしても5〜6%しか売れないのがいまのBEVの実力ということだ。この先補助金が削減されたらどうなるか。中国では2019年に補助金が削減された途端右肩上がりだったBEVの販売台数は急減した。一党独裁の中国でさえBEVの普及は達成できずハイブリッド容認へと舵を切ったほどにBEVの販売は難しいのだ。
欧州でも販売好調なハイブリッド車
それに対し、BEV至上主義者が「ガラパゴス」と揶揄するハイブリッド車の販売は、欧州でも好調だ。BEVのような補助金なしにマーケットシェアは10%を超え、トヨタに限定すれば販売の50%以上がハイブリッド車だ。その結果、トヨタはもっとも二酸化炭素排出量の少ないメーカーとなっている。ここで再確認しておきたいのは、環境車は普及してこそ効果があるということだ。いくら環境性能が高くても普及しなければ何の役にも立たない。BEVを買える人は買えばいい。しかし様々な事情で買えない人はハイブリッド車を選んで環境に貢献すればいい。そのほうが全体としての二酸化炭素を効果的に減らせるし、事実欧州でもそういう流れになっているのだ。「EVはもはや世界の潮流。いくら日本でハイブリッドが人気でも海外では売れないのだからいますぐEVをやるべきだ」という意見はここでも否定される。

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