文春オンライン2021/01/05 4:50
https://toyokeizai.net/articles/-/400137

いつまでも脱出できない
だが、青春18きっぷなどを握りしめて在来線の旅を楽しむ人にとっては、延々と続く静岡県内東海道線41駅の旅、“楽しい楽しい静岡県”などと揶揄する向きもあるとかないとかで、とにかくいつになっても静岡県を脱出できない。

乗っている電車がありふれたロングシートの通勤電車だったりするから、その苦痛たるやいかばかり。以前、筆者は東海道線全駅を取り上げる本を書くために一駅一駅下車したことがあるが、大きすぎず小さすぎずのよく似た駅が続いていた。

とはいえ、こうした通過する地域がなければ日本列島は結ばれない。そこで改めて、静岡県内の鉄道の旅を楽しんでみることにする。

静岡県内の鉄道の中核といえば、やはりなんといっても東海道新幹線である。これに異論がある人はいないだろう。「いやいや、のぞみは停まらないじゃん!」といったツッコミもあるかもしれない。確かにその通りで、静岡県は「のぞみ」に完全に飛ばされている。

しかし、だからといって県内において新幹線の地位が低いということにはならないし、もちろん不便だということにもならない。例えば、静岡県の県都・静岡市。そのターミナルである静岡駅には、「のぞみ」こそ停まらないものの基本的に「ひかり」が毎時1本しっかり停車するのだ。

東京駅からの所要時間は約1時間。東京駅から中央線快速電車に1時間揺られると、だいたい日野や豊田あたりに着く。お値段の違いがあるから単純に比較はできないが、静岡は東京からも意外と近い。

県内移動にも新幹線が便利
さらに静岡県で最も人口が多い浜松市。こちらも浜松駅には「ひかり」が毎時1本停車する。下りの新幹線でいえば、東京から1時間で静岡に着いて、さらに20分程度で浜松駅だ。在来線で静岡―浜松間を移動すると約1時間15分。新幹線の威力に驚くばかりだが、おかげで静岡―浜松間で新幹線を使う人も少なくないようだ。もちろん在来線よりお金はかかるが、お値段以上、シンカンセン、なのである。

新幹線の威力を目の当たりにすると、どうしてもかすんでしまうのが在来線の東海道線。かつてはブルートレインをはじめ多くの特急が行き交った大動脈だった。しかし、今では静岡県内の東海道線を走る特急列車はほとんどなくなった。

さらに普通列車も東西の熱海・浜松でおおむね運転系統が途切れているから、県をまたいで走る列車は少なめ。貨物列車の往来は盛んだが、やはり大動脈感は薄れている。

そうしたわけで、青春18きっぷでこの区間を抜けようとするとつらい気持ちになってしまうのだが、よくよく途中の駅を見てみよう。熱海から苦難の末に開通した丹那トンネルを抜けると三島。沼津は静岡東部の中心地で某大ヒットアニメの舞台としても有名だ。

富士駅あたりでは製紙工場が煙をくゆらせ、その向こうに富士の山。薩?(さった)峠を越えて清水は清水次郎長と「ちびまる子ちゃん」でおなじみで、静岡駅を後にして安倍川を渡れば日本屈指の大漁港・焼津だ。

牧之原台地の茶畑を見ながら続く掛川は二宮尊徳の報徳思想の町で、野外ライブの聖地・つま恋リゾートも。ラグビーW杯の舞台にもなったエコパスタジアムは愛野駅のほど近くだ。御厨(みくりや)駅は2020年3月14日、高輪ゲートウェイと同日に開業した新駅で、Jリーグ・ジュビロ磐田が拠点とするヤマハスタジアムの最寄り駅となっている。

楽器と自動車産業の街・浜松を過ぎれば浜名湖の南端「今切の渡し」を電車に乗ってひとっ飛び。うなぎの養殖場を眺めつつ、静岡県の旅は終わりを告げる。

個性豊かな私鉄路線
こうしてみると、途中のそこかしこで電車を降りて散策を楽しんでみてもいいような気がしてくるではないか。さすが天下の東海道、どの街も歴史あり名物ありで見どころが少なくない。それに、主要なターミナルからは決まって他の鉄道路線が延びていて、そちらに乗ってみるという楽しみもある。

まずは吉原駅で分かれる岳南電車。富士市内を走る小さな小さなローカル私鉄で、途中では工場の中を抜けて通るような区間もあって、富士市が屈指の工業都市であるということを実感できる。

終端の岳南江尾駅に近づけば、工業地帯から抜けて静岡らしい茶畑も見え、もちろん富士山も望める。

さらに富士駅からは身延線というJRのローカル線も延びている。北に進んで焼きそばでおなじみ富士宮を経て、富士川に沿って富士山の西側を北へ向かって最後は山梨県甲府市へ。静岡県と山梨県を直接結ぶ、唯一の鉄道路線だ。
(以下リンク先で)