埼玉県戸田市の戸田中央総合病院で発生した新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が、国内最大規模に拡大している。感染者数は最初の感染確認から2カ月あまりたった18日で313人。地域医療の中核を担う病院の大規模クラスター化は、救急患者の搬送や新型コロナ用の病床確保にも影響を及ぼしている。(飯田樹与)
◆感染者は職員165人、患者148人に
 県によると、18日時点の同病院の感染者数は、医療従事者ら職員165人と患者148人。このうち患者31人が死亡した。16ある病棟のうち12病棟で感染者が確認された。
 院内で最初に医療従事者の感染が判明したのは昨年11月17日。同病院が独自に対応していたが、感染拡大が収まらず、12月下旬から感染者が急増。今月4日に病院が県に協力を求め、6日に厚生労働省のクラスター対策班や県などが合同対策本部を設置した。
 同本部はゾーニングに応じた防護服の着脱や、医師や看護師以外にも、患者に触れる機会の多い検査技師やリハビリテーションの職員にも防護服着用を指導するなど、同病院の感染管理体制を強化。昨年12月31日には1日の新規感染者が29人に上ったが、今月10日以降はゼロ〜4人で推移している。
◆県担当者「職員と患者の接触が濃かった」
 県の担当者は、感染経路は調査中とした上で「職員と患者の接触の度合いが濃かったことが関係していると考えられる。対策に努めていたと思うが、不十分だった」と指摘。この間の県の対応については「病院には感染管理の専門家がいた。(県として)『こうすれば良かった』ということがあったとは考えていない」としている。
 クラスターの発生で同病院は現在、新規入院患者や外来の新規患者の受け入れを停止し、救急外来の受け入れも見合わせている。
◆近隣自治体の病院にも影響
 この影響で、コロナ以外の患者が川口市や蕨市など近隣自治体の病院に救急搬送されるケースが増加。戸田市消防本部によると、搬送先の6割が戸田中央総合病院だったが、市外への搬送で119番から病院に到着するまでの時間も10分ほど延びている。
 また、コロナ重症者用病床を開設予定だった近隣自治体の病院も、救急搬送に対応することになり、県のコロナ病床確保計画にも遅れが出ているという。
◆常に感染の恐怖を感じながら…
 戸田中央総合病院の関係者は本紙の取材に、昨年末から職員の感染が急増し、残された人手で入院患者の対応に追われているとして「まさに野戦病院のような状態だ」と証言。「職員たちは常に感染の恐怖を感じながら働いている」と危機感を表す。
 職員の感染は165人に上り、全職員の約1割に当たる。関係者は「少しずつ復職し始めたが、一時はすれ違う人がいないほど職員が減った。循環器疾患を専門としない医師らも、交代でコロナ患者の処置に当たっている」と明かす。
◆出入り業者もゴーグル着用、マスクしてても会話は禁止
 厚生労働省の対策班が入った年明け以降は感染管理のルールが厳格化され、病室の出入り口近くには防護服の着脱エリアを示すテープが貼られ、病棟の1室が使用済み防護具のごみ置き場に指定された。
 さらに9日には、2週間をめどに、感染対策をより徹底するように指示があった。職員だけでなく出入り業者もゴーグルの着用が求められ、休憩室やロッカーではマスクをしていても会話は禁止に。休憩室の入室は時間をずらし、人数も制限された。
 関係者は「初期の段階でこうした対策を取り、全職員のPCR検査をして無症状感染者を発見できていれば、ここまで感染は広がらなかったのではないか」と指摘する。(近藤統義)

東京新聞 2021年01月18日 21時38分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/80628