男性と女性は、脳の仕組みが金星人と火星人ほどにも異なっていると例えられることがあるが、現実はそう単純ではない。典型的な女脳や男脳といったものはそれほど多くはないようだ。

 中国、復旦大学をはじめとする研究グループによると、じつのところもっとも一般的なのは、男脳と女脳が混ざった両性具有脳であるそうだ。

 『Cerebral Cortex』(1月20日付)に掲載された研究では、男女の特徴をあわせ持つ脳は、柔軟な認知能力があり、心も健やかであることを明らかにしている。

■ 男女の脳に違いはあるのか?長年議論されるテーマ

 男性は理性的で、地図を読むのが得意。女性は感情が豊かで、言語能力が優れている。もちろん個人差はあるが、このような違いが生まれるのは、男性と女性では脳の構造に違いがあるからだという説がある。

 実際のところ男性と女性でどのくらい脳に違いがあるのか? これは長年議論が交わされてきたテーマだ。

 性別によって脳に違いがあると主張する報告がたくさんある一方で、そうした差異は些細なもので、絶対的なものではないという意見もある。

 後者の立場からは、女性と男性とで性格や能力に違いが生じるのは、社会的規範や周囲からの期待といったものに根ざしていると主張される。

 ステレオタイプの男らしさ、女らしさが刷り込まれていった結果、周りの期待に添うように性格が形成されるというものだ。

 これに関して心理学では、ほとんどの人の性格は、男性的とされものと女性的とされるものの中間にあるという説がある。

■ 男女の脳の神経回路を分析、最も一般的なのは両性具有脳

  今回の研究では男女の脳の構造を探るアプローチを行った。

 研究グループは、機械学習アルゴリズムと脳の神経回路の画像データから、一方の端が典型的男脳、もう一方の端が典型的女脳でなる範囲を作成し、そこに9620名(男性4495名、女性5125名)の脳をプロットしてみた。

 その結果、両性の脳は範囲全体に分布していることが分かったという。あるサブサンプルでは、男脳とされるのは25%、女脳は25%で、残りの50%は両性具有的な脳という結果になったとのことだ。

 つまり女性だから女脳、男性だから男脳とは、脳の神経回路的にも一概には言えないということだ。

 さらにちょうど中間に位置する両性具有脳の持ち主は、両極端な人に比べて、うつ病や不安症といった心の問題が少ないことも分かったという。これは心理的に中性的とされる人にも当てはまる傾向であるそうだ。

 常に変化し続けるこの世の中では、周囲の世界にいつも注意を向けていなければならない。また健康な心を保ち、柔軟で、生きるためにいろいろな戦略を用いることができなければならない。

 こうした力があれば、周囲の状況を素早く理解し、それに応じて対応できるようになる。チャンスをタイミングよく手にし、しなやかに生きる手助けにもなる。

 両性具有脳が人々の中に広まったのは、それができるからだと考えることができる。

■ 極端な女脳や男脳は生きにくい

 一方で、78本の研究(計2万人が対象)のメタ分析によれば、他人に頼ったことがない、女性に対して支配的に振る舞うといった、典型的な男らしさの持ち主は、うつ・孤独・薬物の乱用といった心の問題に苦しみ、人付き合いが少ないことが分かっている。

 典型的な女らしさを規範として生きるのにも代償がともなう。たとえば夢に思い描いた仕事に就けたとしても、それが男性的な職場なら長く続けられないし、家事の大半を担うはめになる。

■ 脳の性質は変化する

 今現在、脳の性質がどちらかの性別に偏っているからといって、永遠にそうだというわけではない。脳には可塑性という性質が備わっている――つまり変わることができるのだ。今回の研究では、脳の両性具有レベルは一生を通じて変化し続ける可能性があることも明らかになっている。

 研究グループの今後のテーマは、一生のうちの特定のステージや教育といったものが脳の両性具有レベルに与える影響を調べることであるそうだ。

http://karapaia.com/archives/52298659.html