(CNN) 昨年の今ごろ、世界はまだ新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がどれほど深刻なものとなり得るかについて理解し始めたばかりだった。

「Covid−19」という単語を初めて聞いてからわずか数週間で、我々は自分たちの基金のオフィスを閉鎖し、世界の数十億人の人々とともに従来とは極端に異なる生活様式への適応に取り組んだ。我々にとって以後の日々は、ぼやけたビデオ会議の映像やぎょっとさせるニュースの警告通知、電子レンジで加熱する料理になった。とはいえ、我々は自分たちが他の人々に比べていかに恵まれているかを十分認識している。過去1年間、新型コロナで死亡した人は全世界で200万人超。罹患(りかん)した人はさらに膨大な数に上り、世界経済は壊滅的な不況に陥った。

国境も地形も気にしないウイルスが世界中で人々の暮らしを根底からひっくり返し、富裕国と貧困国との間にあった違いは部分的に崩壊した。その中で、新たな意味合いが「グローバル・ヘルス(世界的な健康)」という用語に盛り込まれた。

かつて「グローバル・ヘルス」は、万人にとっての健康、あらゆる地域における健康といった意味ではほとんど使われていなかった。むしろそれは、裕福な国の人々がそうではない国の人々の健康を指す際に用いる言葉だった。つまり「途上国の健康」と同義だったのである。もしあなたが過去10年の間に開かれた健康に関する世界的な会議に出席したとしたら、ウガンダで流行する疾患について耳にする機会の方が米国での疾患の話よりもはるかに多かっただろう。

しかしこの1年で状況は変わった。2020年、グローバル・ヘルスはそれぞれの地域の問題になった。我々全員が直接目の当たりにしたのは、行ったことのない場所で発生した聞いたこともない疾患がどれほどのスピードで蔓延(まんえん)し、公衆衛生上の緊急事態を自分のごく身近な場所で引き起こし得るのかということだった。Covid−19のようなウイルスが思い起こさせるのは次のような事実だ。我々の間にどれほど違いがあろうとも、この世界に住むすべての人々は細菌と微粒子からなる極小のネットワークでつながっている。そして好むと好まざるとにかかわらず、我々は皆、その中でともに生きている。

おそらく歴史は今後、現在の状況をパンデミックがもたらした最悪の日々として思い出すだろうが、ようやく希望の兆しも見えてきている。あなたがこの記事を読むまでには、あなた自身か、あなたの知っている人がすでに新型コロナウイルスのワクチンを接種している可能性がある。これらのワクチンがすでに利用できる状態にあるという事実は、かなり注目に値すると我々は考えている。すべては極めて大規模な、世界的に例を見ない公衆衛生上の取り組みの賜物(たまもの)だ。いかなる国や企業も、この偉業を単独で成し遂げることはできなかっただろう。世界中の資金提供者が共同で出資し、競合する企業同士が研究結果を共有した。取り組みに関わった全員が幸先のいいスタートを切れたのは、何年にもわたるテクノロジーへの世界的な投資のおかげだ。こうした資金が助けとなり、ワクチン開発の新たな時代が幕を開けた。

もちろん、安全で有効なワクチンの開発は物語の始まりにすぎない。今、世界が行わなくてはならないのは、それらのワクチンを接種が必要なすべての人々に配布することだ。高所得国にも低所得国にも同様にである。すべての人々にワクチンが行き届くまでは、新たな集団感染が今後も世界中で発生し、命は失われ続けるだろう。だから我々は、米国がGaviワクチンアライアンスに40億ドルを拠出したのを見て喜んだ。この資金は米国の最新の新型コロナ救済パッケージの中に盛り込まれたものだ。Gaviは中・低所得国へのワクチン配布で重要な役割を果たすだろう。賢明な政策立案者ならわかることだが、世界のあらゆる地域で勝利を収めなければ、我々は新型コロナに勝つことができないのである。

https://www.cnn.co.jp/world/35165720.html