(中略)
選挙の結果という現実を受け入れず、事実無根の主張を続け、憎悪と暴力を煽り、挙げ句、暴徒が連邦議会になだれ込み、5人が死亡する
―トランプ氏とその過激な支持層の言動は、もはや政治運動というよりも、カルト宗教とも言うべきものなのかもしれない。
悪いことに、それは米国だけにとどまらず、日本においても、熱狂的な「トランプ信者」と言えるような人々はいて、
まるでパラレルワールドの住人のような言説をSNSなどで発信し続けているのだ。

(中略)
中でも、20年近く中東情勢をウォッチし続け、現場取材も繰り返してきた筆者にとって許しがたいのは、
「トランプ氏は戦争をしなかった平和的な大統領だった」という暴論だ。


┃トランプは戦争をしなかった大統領というデマ

 「トランプ氏は戦争をしなかった米国の大統領としては稀有の平和主義者」―事実と全く異なるデマではあるが、
この種の主張が日本においても不気味なほど広がっている。
とりわけ、メディア上でも発言したり、その主張が引用されたりするような、識者や著名人ですら、同様の発言をしていることは、危機感を感じざるを得ない。

ブッシュ、オバマ両政権から引き継いだものとは言え、トランプ政権も中近東やアフリカで対テロ戦争を非常に活発に行っていたし、
オバマ政権末期よりも、より激しく空爆を行っていた。

また「新たな戦争を行わなかった」というのも、結果論であり、特にイランに対しては、オバマ政権時での合意を覆し、
イラン革命防衛隊の指揮官を空爆で殺害するなど、戦争が勃発してもおかしくない状況をわざわざつくったのは、トランプ政権だ。
以下、端的にまとめてみたが、「トランプ氏は平和主義者」とは言い難い、具体的な事実がある。

・オバマ政権の8年間で行われたドローン攻撃は、1878回であったが、トランプ政権の最初の2年だけで、
アフガニスタンやパキスタン、ソマリアなどで2243回ものドローン攻撃を行っている。トランプ政権はドローン攻撃に極めて積極的だった。

・オバマ政権は「誤爆についての報告義務づけ、民間人被害を未然に防ぐ対策を強化」「被害者家族への謝罪と補償」などの対策を、米国の関連機関に命じていた。
だが、トランプ政権では、標的を攻撃する判断での軍及びCIAの権限を強化する一方で、民間人殺害に関する報告義務を削除した。

・トランプ政権は、対IS(いわゆる「イスラム国」)の軍事作戦として、イラクやシリアでの猛空爆を行ってきた。
特に2017年は米軍主導の多国籍軍の空爆により、ほぼ毎日、民間人が死亡するという状況が続き、シリア西部では昨年11月になっても空爆が続いていた。
AIRWARSの年次報告書によると、2017年の米軍を中心とする有志連合による中東各国への攻撃での民間人被害は、
オバマ政権時であった2016年と比較して倍増し、3,923人から6,102人の民間人が死亡したと推定されるという。

・オバマ政権時(2015年)にイランとの間で成立した核合意―イランはあくまでエネルギー利用として核開発を行い、
核兵器には使用しないかわりに米国やEU等は対イラン経済制裁を解除するという合意から、トランプ政権は2018年、一方的に離脱。
対イラン制裁を再開した。さらに、トランプ政権は、2020年1月にはイラン革命防衛隊の指揮官ガセム・ソレイマニ氏を空爆で殺害。

これに対し、イラン側は、同国の隣国イラクにある米軍基地でミサイルを発射するなどの報復を行うなど、
戦争勃発寸前までに緊張が高まった。その後、トランプ氏は昨年11月にイランの核関連施設への軍事攻撃を検討していたことが、
米紙ニューヨーク・タイムズによって報じられている。

なお、トランプ政権とイランの緊張の高まりによって、中東海域へと海自が「情報収集」という名目で派遣されるなど、日本も巻き込まれている。

・2020年末にブラウン大学政治学部長のネタ・C・クロフォード教授が発表した米国のアフガニスタン空爆についての研究報告によると、
オバマ政権末期の2016年では250人であった民間人の犠牲は、トランプ政権下の2017年に295人、2018年には548人と増加した。2019年には、
700人の民間人が殺されており、これは米国のアフガニスタン侵攻の最初の2年間を除けば、他のどの年よりも多い数だ。

全文
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20210131-00220395/