文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている広島県東広島市の県立西条農業高校は、宇宙生活に農業技術を活用する「宇宙農業(アストロアグリカルチャー)」の研究に取り組み始めた。突き抜けた発想力などを高めるのが目的だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携し、農業の可能性を探る。

 現在、全国の農業高校でSSHの指定を受けているのは同校だけだ。食や環境、生命など農業高校ならではのテーマを設定し、農業と科学技術を組み合わせた特色のある研究に取り組む。

 宇宙農業の研究は今年度から始めた。学校全体で、火星への往復飛行と火星基地滞在で食料の自給自足を実現するために、どんなことができるかを研究する。同校には7学科あり、それぞれの専門性を生かして進める。担当の大平理恵教諭は「突き抜けたテーマだからこそ、生徒はワクワクしながら取り組んでくれている」と話す。

 生物工学科は、火星での長期生活の実現に向け安定的な食料確保と廃棄物処理をするため、細菌を応用した促成栽培と、廃棄物の再資源化のアイデアを考えた。

 このアイデアは、小型衛星をはじめとするさまざまな宇宙ミッションのコンセプト、アイデア、設計構想を審査する「第28回衛星設計コンテスト」でジュニア大賞を受賞した。同学科の杉本和希さん(18)は「3月に卒業するが、実用化ができるように今後も研究を続けていきたい」と意気込む。

 学科とは別に、部活動の自然科学部も研究に取り組む。宮越真実さん(17)は、宇宙ステーションでの昆虫飼育に向けて研究。「宇宙でも昆虫食が始まるかもしれない」と想像を膨らませる。

 昨年8月にはJAXAによるリモート講義を受講。各分野の専門家から多様な視点を学んだ。大平教諭は「宇宙農業を通じて、課題を自ら見つける力がついたと思う。次は農業・食料問題を科学技術の力で解決できるように、大学などで、この先も研究を続けてほしい」と期待する。
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