「接待を伴う飲食店」からの訴え


緊急事態宣言の発令地域を中心に、飲食店に対する時短営業の要請が続いている。
一方、クラブやキャバクラなど「接待を伴う飲食店」の中には要請に従わず、夜遅くまで営業を続けているところが少なくない。

従わない店への罰則を定めたコロナ対策の改正特別措置法の施行日は13日。深夜遅くまで営業を続ける店を訪ね、時短要請に従えない事情を聴かせてもらった。

今年で創業25年を迎える東京・銀座の高級クラブ「ル・ジャルダン」。2月上旬の夜、ビル3階にある店を訪ねると、着物に身を包んだママの望月明美さん(55)が迎えてくれた。
緊急事態宣言中で飲食店は午後8時以降の営業自粛を要請されているが、ここは午前0時まで店を開けている。

望月さんは銀座で計4店舗を持ち、かつては年商10億円を誇った。
だが、コロナ禍で苦境が続く。昨年の緊急事態宣言中は全店舗で2カ月間休業し、再開後も客足は戻らなかった。

それならばとオンラインで接客を受けられるサービスなど新たな試みを始めるも、どれもうまくいかない。
感染が落ち着いた秋ごろにようやく状況が上向き、一息つきかけたのもつかの間、冬場の「第3波」到来と2度目の緊急事態宣言で逆戻り。
家賃だけで毎月約600万円もかかる中、もはや再度の休業に踏み切る余裕はなかった。昨年の売り上げはコロナ前に比べ半減したという。

望月さんは要請に応じない一番の理由を、「キャスト(接客を担う女性)たちを守るため」と語る。

コロナ前は130人ほどいたが、現在は約70人に減った。「看護師資格を持つなど他に仕事のあてがある人や、実家を頼れる子は離れていきました。
今残っているのは銀座やこの仕事が好きだからという子もいますが、『夜しか選択肢がない』という子も少なくありません」

開店時間が遅い夜の業界にとって、時短要請は事実上の休業要請にあたる。要請に従うことは、店を閉じるに等しい。
望月さんは「従業員やキャストからはこれまで一人も感染者が出ていませんし、今も来店時の検温や定期的な店内消毒、
接客時のフェースシールド着用などを欠かさず続けています。悪者扱いされ、『営業やめろ』と言われるのはとてもつらい」と訴える。

現状、要請に応じていない店はどのくらいあるのか。

接待を伴う飲食店へのコンサルタントなどを手がける「日本水商売協会」(東京)の甲賀香織代表(40)は
「(複数店舗を持つなど)規模の大きな店ほど営業を続けているところが多い。中規模以上の店で見ると銀座では半分くらい、六本木では7割程度が店を開けています」と話す。

1日6万円の協力金が実態に見合っていないためだ。

一方、歌舞伎町のホストクラブは規模を問わず9割ほどが営業を続けているという。

「キャストやホストは個人事業主なので、雇用調整助成金や休業支援金の対象になりません。彼女らを守ることを考え、どの店も要請に応じないのではなく、応じられないのが実情です。
『開き直っているだけ』と思われるかもしれませんが、本当に生きるか死ぬかにかかわる話なのです」

夜の世界は生活基盤が不安定な女性の「受け皿」にもなってきた。コロナ禍の今、キャストが受け取れる収入は激減しており、
中にはシングルマザー向けの特別手当を支給している店もあるという。

「私たちの業界にはセーフティーネットという機能もあります。そこがなくなると、どうなるか。本人の意に沿わない売春の横行につながりかねません。
追い詰められ、自ら死を選ぶ人も増えていると聞いています」と甲賀さんは危機感を抱く。

ネット上には生活に困窮するのは「自己責任」とする論調も目立つが、「昼の仕事に転職できる人はとっくにしています。(夜以外の)他に選択肢があるのなら教えてほしい」と反論する。
https://mainichi.jp/articles/20210212/k00/00m/040/259000c

緊急事態宣言中も営業を続けている「ル・ジャルダン」。ママの望月明美さん(中央)やキャストはフェースシールドを着用して接客にあたっている=東京都中央区銀座で2021年2月1日午後7時20分
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