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心霊体験なら俺もあるよ、しかも同じ埼玉で。

埼玉の川越の郊外に住んでたんだが、通学路の途中に大き目の公園があった。
高校時代、部活で遅くなるとそこの中を通るんだが、
周りは田畑で、小さな工場がいくつか点在してるだけで、夜は人気もなくて暗い。
とはいえガキの頃から遊んで場所だったんで、その当時の俺はとくにビビる事なくそこを通ってた。
もう時効なんだが、高校生なのに俺はタバコと酒をやってて、
時折その公園の中にある小さな山の上で帰宅途中に飲み食いしてた。
ビールや缶チューハイをぐびぐび飲み、ラークの煙を漂わせて、一人でちょっと悪ぶってた。
今思い出すと、本当に恥ずかしい過去だ。

そんなある初夏のころだった。その日も部活とバイトで遅くなり、もう夜9時頃になってた。
俺は公園内の小山の上に登り、途中で買ってきた酒を飲み、ゆっくりタバコをくゆらせてた。
親は出張でいないし、姉ちゃんは北海道に進学したし、その日は俺一人。
遅くなったところで文句言われる心配もなかったんで、普段よりちょっと多めに飲んだんだ。

どれくらい時間が経過したんだろうか?公園内にある時計を見たら、もう深夜12時を過ぎていた。
さすがにそろそろ帰らなきゃ、そう思ったとき、辺りから無数の足音のようなものが聞こえてきたんだ。
公園はちょっと広めで遊具や植え込みが多かったりして、俺のとこからも死角が多い。
そのどこかしらから、もうはっきりと足音だとわかる音がしており、しかもそれがこっちに近づいてる。
子供のころからしょっちゅう遊んでた公園だったが、その時生まれて初めてゾッとしたね。
俺は身じろぎし、怯えながら周りを凝視した。明らかに何者かの気配がする。
それらがクスクスと笑い、楽しそうに囁きながら、蠢いてる。
しかも一人じゃない、周囲を無数の気配が取り囲み、俺の方に向かっていた。

逃げよう、と思ったが、どちらに逃げるべきか解らず困惑してたとき、それが起こった。
木立や植え込み等の物陰から、一斉にそいつらは現れたんだ。一糸まとわぬ若い娘たちの霊が!
歳の頃は十代後半から二十代前半の、見事にピッチピチな若い娘たちだ。
僅かな月明かりのなかで白く艶かしい肢体が蠢き、こちらに突進してくる。
黒髪をなびかせ、ようやく実った柔らかい乳房を揺らしながら。
彼女たちの目は一様に爛々と輝き、真っ赤な唇は真珠のような白い歯をのぞかせながら笑っていた。
俺は思わず「ひ、ひいっ!」っと悲鳴を上げて後ずさったが、
その瞬間、女の臭いが俺の鼻孔を充満し、地べたに押し倒された。
彼女たちの手は素早く俺の服をはぎ取り、唇や乳房が俺の肌に押し付けられ、何度もキスされ、もみくちゃにされ、
俺は抵抗を試みたが、幾度も襲ってくる快楽の大波に呑まれ、そのたびにわななき、そしていつしか意識を失った。

ふと気づくと、俺はその公園の同じ場所に座っていた。
真っ昼間で、少々日差しがまぶしいくらいだった。そしてなぜか、俺は33歳になっていた。
スーツを着、ネクタイを締め、仕事用のカバンを脇に置き、公園の小山の上でまどろんでいたのだ。
今までのは何だったのだろうか?確かさっきまで自分は高校生で部活とバイトを済ませて帰宅する途中で・・・
その時だった、突然スマホが鳴った。俺は大慌てでスマホを取り出した。
そこには30歳を過ぎた自分と、おそらく自分の妻であろう見知らぬ女と二人の子供が写っている。
俺は慌ててLINEを開くと、妻と思しき女からのメッセージで、「今夜は早く帰ってきてね」と書かれていた。

俺はそのメッセージに返信しようか、と思ったが、それ以前に今の状況が全く理解できなかった。
胸ポケットには俺の名前が書かれた聞いたこともないような製薬会社の名刺もある。
どうやら俺は今、この会社の営業で、埼玉県内のあちこちの医療施設に薬品を卸している途中らしかった。
目線を上げると、公園の脇にその製薬会社のワゴン車が路駐してある。おそらく俺が乗ってたやつだろう。
だが俺には、高校生だったあの日の夜から現在までの記憶が一切ないのだ!

そしてふと、公園を見回した。昼下がりというのに、人っ子一人居なかった。
初夏の風は吹き抜け、公園の木立の葉が一斉に揺れたその時、
木立の陰に、無数の若い娘たちがいるのを一瞬見たような気がした。
夏の日差しを浴び、まばゆいくらいに輝く若い女の肌・・・

俺はその場をフラフラと立ち上がり、妻へ返信した。
「今夜は仕事で帰れそうもない、ゴメン」と。