日本は地震大国で、つい先日も海底を震源とした大きな地震に世間が驚かされたばかりです。

こうした地震が起きると、すぐに原因を推定した研究者の意見が報道されますが、海底の下の状態をどうやって調べているのか? と気になった人も多いでしょう。

海底で起きる地震を研究するためには、海洋地殻の構造を理解することが重要になります。これはかなり資金や準備のかかる大変な調査です。

しかし、2月12日に科学雑誌『Sience』に掲載された新しい研究は、地球で二番目に巨大なナガスクジラの歌を使って、海洋地殻内の様子を決定できると報告しています。

自然の中にある動物の鳴き声を使って、困難な調査がおこなえるとなると、それは素晴らしい発見かもしれません。

海底で起きる地震の物理学を理解するために、海底の地殻がどうなっているのかを調べる必要があります。

この調査では、船に積まれたエアガンという装置を使って海底に向かって地震波を放ち、地下の地層境界で反射・屈折してきた波を拾って、地下構造を画像化します。

解説図:今回の研究でも利用されていた海底近くの調査方法。屈折法地震探査。
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今回の研究を行ったオレゴン州立大学の、ジョン・ナベレク教授と、博士課程学生のヴァーツラフ・クーナ氏も、この方法を使って地震研究を行っていました。

彼らはオレゴン海岸のブランコ岬沖、約160kmにあるトランスフォーム断層(プレート境界で生成される横ずれした断層)に沿って54個の海底地震計を設置し、そのネットワークを使って地震研究をしていたのです。

しかし、彼らはその研究過程で、エアガンを使わなくても地域のクジラが鳴くたびに、地震計に強い信号が現れることに気づきました。

クジラの歌は、エアガンの衝撃と同様に海面と海底の間で跳ね返り、海洋地殻を通過して玄武岩層やその下の斑れい岩(はんれいがん)の地殻によって反射や屈折を起こしていたのです。

クジラの歌が地震計で記録されるとき、それは研究者が地殻構造を推定してマッピングするための有益な情報となっていました。

そこで、研究者たちは、3つの地震計で記録されたクジラの歌を使用して、クジラの正確な位置を割り出しました。

そして、この歌の振動を利用して地球の地殻層を画像化することに成功したのです。

解説図:クジラの歌声が、地殻を伝わる地震波になる。
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地殻を画像化するための、現在の伝統的な方法は費用がかかる上、エアガンの配備には特別な許可を取得する必要もあり、かなり手間がかかっています。

そのため、こうした研究作業に、自然環境の中にあるクジラの歌が利用できるというのは、かなり有望な発見です。

ただ、クジラの歌を使って作成された近く画像は全体的に解像度が低く、完全に現在の方法と取って代わるものではありません。

それでも、従来の方法が採用できないような状況があった場合、今回の海洋地殻調査方法はかなり役に立つだろうと、ナベレク教授は語っています。

https://nazology.net/archives/83111