愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)を巡る不正署名問題で、県選挙管理委員会は署名が大量に偽造された疑いがあるとして、地方自治法違反の疑いで県警に刑事告発した。
不正署名の作業にアルバイトを動員したことなどが明らかになってきたが、今後の捜査で罪に問われるのは誰なのか。専門家に聞いた。

(中略)
 誰が不正の首謀者なのかや、不正の構図も現時点で明らかではなく、県選管も「被疑者不詳」で刑事告発している。
今後、一体、誰が違法行為を行ったと判断され、どの程度の処罰を受ける可能性があるのか。

「弁護士法人クローバー」代表の村松由紀子弁護士によると、地方自治法74条の4で署名の偽造が禁じられており、
違反者は「三年以下の懲役、若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」に処せられるという。

 村松弁護士は「不正行為の詳細が明らかではないため断定的なことは言えないが」と前置きしたうえで、こう解説する。

「不正を考案し、指示するなどした首謀者については、違法行為を行った『正犯(実行犯)』として処罰の対象となるでしょう。
それ以外に関与した人物については、不正行為へのかかわり方の程度によって、
『共同正犯』や、もしくは不正をそそのかした『教唆犯』、不正を手助けした『幇助犯』とされる可能性があります」

 教唆犯や幇助犯が成立するためには、基本的に「署名の偽造」という事実を認識している必要があるという。
ということは、アルバイトをして給料をもらった人は、「不正だと知らなかった」と言えば罪には問われないのだろうか。
一方で、口外しないという誓約書を書かされたとの報道もあるが、
このような誓約書に同意した時点で「署名の偽造」を認識していたという判断になるのか。

「署名簿に他人の名前を記載する行為自体が不自然ですし、実際に作業をした際の状況によっては、『他人の名前を記載することについて、
何らかの違法性を認識している可能性があった』と判断される可能性は十分あると思います」(同)

 ただ一方で、仮に県警がアルバイトたちを地方自治法違反容疑で書類送検したとしても、必ず処罰されるというわけではないという。

「検察官は起訴するか否かについて幅広い裁量権を有しています。
例えば、同様に民主政治の健全な発展を目的とする公職選挙法に違反したからといって、全ての人が処罰されるわけではない。起訴猶予になる人も相当数います。

アルバイトをした人はお金をもらっているので、処罰の必要性が低いとまでは言えず、必ず起訴猶予になるとは断定できませんが、
自分から警察に行くなどして事実を正直に伝えることは心証にも影響すると思いますので、まずは事案の解明に協力して欲しいと思います」(同)

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