福井新聞 2021年3月3日 午前7時10分

 先天性の難聴は、言葉の発達のために乳児期からの支援が重要とされる。福井県内で専門の特別支援学校は福井市の福井県立ろう学校に限られ、嶺南地域の保護者は子どもを連れて何時間も高速道路を走り、通う日々だ。福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)に「身体的、経済的にもう限界」と苦しい胸の内を寄せた。


 ◆週3日以上

 美浜町の2歳男児は障害者手帳の対象となる高度難聴で週1回、県立ろう学校の乳幼児教室に通う。音声でコミュニケーションが取れるようになるための支援を受けている。

 片道約90キロ、高速道路で1時間半の道のり。母親は「新年度からは週2回。再来年度に幼稚部に入学すると週3日以上、3年間通学することになる」。入学後はパートの仕事を辞めざるを得ないと考えている。

 先天性難聴は新生児の千人に1〜2人いるとされる。「聴覚や言語に関するシナプス(神経細胞のつなぎ目)の発達は1歳までにピークを迎えるとの研究がある」と福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の伊藤有未特命助教。音声での意思疎通には、生後6カ月までに補聴器を使うなど、早期の支援が大切だという。

 美浜町の母親は昨年度、長女がろう学校幼稚部を卒業したばかり。長女はろう学校小学部進学が適当と判定されたが、通学の負担を考え地元の学校を選んだ。「長女がろう学校に通学していたときは働けず、貯蓄を取り崩した。今ようやく働けているが、長男の通学がまた始まると思うと…。負担はもう限界。嶺南に療育の場があれば」

 ◆北陸道で壁に激突

 別の嶺南西部の母親は、息子がろう学校幼稚部に通っている。3年前、下校中の北陸自動車道トンネルで事故を起こした。「疲れからか、気付いたら右の壁にぶつかり左の壁にもぶつかって…」。後部座席の息子を含め無事だったが車は廃車。夫は「通学の日は無事に帰ってくれてようやく安心できる」と打ち明ける。

 嶺南に分校や分室を設けることはできないのか。福井県高校教育課特別支援教育室の坪川修一郎室長は現時点で計画はないとし「対象人数が少ない点と、専門的な人材の不足が課題」という。ろう学校によると現在、嶺南から定期的に通っているのは幼稚部2人と乳幼児教室の3人。ただ小中学・高等部の在校生や敦賀と小浜で毎月開くサテライト教室を含めると、例年20人前後、嶺南の子どもを支援している。

 ろう学校の松村浩成校長は「嶺南に拠点があることが望ましい」と認めた上で「すぐには難しく、サテライト教室の充実や人材育成を進めたい」とした。

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