在留資格のない外国人を収容する東京出入国在留管理局(東京都港区)で2月、入管収容施設では国内初の新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した。3月3日までに同局の全収容者の4割以上にあたる58人が感染し、職員も合わせると64人が陽性になった。感染した収容者が毎日新聞の電話取材に応じ、施設内の現状を語った。

 同局では建物内の4フロアで男性105人と女性27人(2月18日時点)がブロックごとに分かれ、個室や相部屋で収容されていた。感染は男性の収容エリアで広がった。2月14日に収容者2人と職員1人が体調不良を訴え、翌15日にこの3人を含む5人の陽性が確認された。同局は全収容者をPCR検査し、陽性者と陰性者を異なるブロックに分けるなどしたが感染は拡大。重症者はいないものの、保健所の指示で基礎疾患がある2人が入院した。3月3日には全ての女性収容者を他の入管施設に移した。

閉ざされた環境の中で、収容者は不安を抱えながら過ごす。イラン人の40代男性は1月末にのどの痛みを感じ、2月11日には食事の味がしなくなった。「コロナかもしれない。うつらないように気をつけて」と職員に伝えたが、この段階では職員も「大丈夫」と答え、深刻に受け止める様子ではなかったという。その後、体調不良が続き、17日に陽性と確認された。

 畳の個室には1日3〜4回、防護服を着た職員が訪れて熱と血中酸素濃度を測る。一時は38度を超える高熱が出て、せきや息苦しさ、体のだるさで動けない日もあった。19日夕に同局の委託医に電話で症状を訴えると、「頑張ってください」と痛み止めを処方された。「コロナのことがもっと分かる医者に診てほしい」と訴えるが、現時点では希望はかなっていない。食事は冷めた弁当なのがつらいという。

 陽性者のブロックでは、他の収容者が苦しそうにせき込む音が聞こえる。横になっていると「自分の身に何か起きても誰も気づかないのではないか」と不安に襲われる。マスクは1日1枚配布されるが、部屋に消毒用アルコールはなく、必要な場合は職員に持ってきてもらう。

 男性はイランの政治体制に反対する活動をしたことで身の危険を感じ、外国を転々とした後、約10年前に来日。これまで2度難民申請したが却下された。一時的に収容を解く「仮放免」が認められた時期もあったが、現在は約3年にわたり外に出られていない。「すごく苦しくて悲しい。クラスターのこともあまりニュースにならず、私たちはそんなに気にされていないのだと感じる」と話す。

 男性と定期的に連絡している東京都在住の弟夫婦は「ちゃんとした医療機関にみせてほしい。急変するかもしれず本当に心配」と訴える。重篤になった場合に連絡が欲しいと入管側に訴えたが、「お答えできない」との返事だったという。

 別のブロックにいたイラン人の50代男性は3人部屋に収容されていて、同室の1人が2月17日に陽性となった。自身は陰性で「部屋を消毒してほしい。移動させてほしい」と職員に訴えたが聞き入れられなかった。20日夜に熱が上がると隣の部屋に移動が許され、24日に陽性が判明した。同室だったもう1人も陽性になったという。「入管は何もしてくれない。消毒しないで同じ部屋にいたらうつる。私たちのことを全然考えてくれない」と話す。

 施設内で感染はどのように広がったのか。昨春の国内での感染拡大を受けて、法務省は専門家を交えて対応を議論し、昨年5月に出入国在留管理庁が対策マニュアルを発行した。施設内では「3密」を避ける必要性が指摘され、同局は400〜500人いた収容者に仮放免を認めるなどし、132人まで減らした。昨年8月に陽性者が1人出たが、その際は感染が拡大しなかった。入管庁は今回のクラスター発生について「マニュアルに沿って対応し、保健所や医師の指導にも従っている。ただ、今回の事案の検証は必要で、マニュアルを見直す必要があるかを含めて検討していきたい」としている。

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https://mainichi.jp/articles/20210305/k00/00m/040/355000c.amp