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参議院予算委員会に参考人として出席した谷脇康彦氏
(出所:参議院インターネット審議中継をキャプチャー)

谷脇総務審議官の更迭、Beyond 5G/6G推進に影響も
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 武田良太総務相は2021年3月8日、一連の接待問題を受けて、総務省官僚のナンバー2である谷脇康彦総務審議官を官房付に更迭した。国家公務員倫理規程に違反する可能性があるためだ。谷脇氏は長く通信行政をけん引し、今夏の総務事務次官就任が有力視されてきた。そんな中心人物の退場により、5G(第5世代移動通信システム)の普及やBeyond 5G/6Gに向けた研究開発、公正競争環境のさらなる整備など、課題が山積する通信市場への影響が懸念される。

通信自由化の歩みそのもの、通信行政のスペシャリストの失脚

 武田総務相は同日の臨時記者会見で谷脇氏の事実上の更迭について「公務に対する信頼を著しく失墜させる行為を行ったことは誠に遺憾」と述べた。谷脇氏の後任は当面空席とする。

 谷脇氏は菅義偉首相が重点政策に掲げる携帯料金引き下げのキーパーソンだった。調整型の多い官僚の中、通信行政のスペシャリストとして国内外に知られてきた。

 谷脇氏の経歴は、1985年から続く通信自由化の歩みそのものだ。84年に郵政省(当時、現・総務省)に入省後、99年のNTTグループ再編などに携わった。05年には総務省料金サービス課長として、電話時代の競争ルールをインターネット時代にふさわしい形へ刷新しようと大改革に取り組んだ。

 谷脇氏の名を一躍業界にとどろかせたのが、07年に開催した総務省の「モバイルビジネス研究会」だ。現在の携帯料金引き下げにつながる、携帯料金と端末代金の内訳を明確にした「分離プラン」導入を携帯各社に促した。結果的に端末販売数が急減する事態を招き、「谷脇不況」という言葉も生まれた。

 その後、通信行政から離れ、総務省で国際戦略を担ったり、内閣サイバーセキュリティセンターの創設にかかわったりするなど他の分野でも重職を担った。

 18年7月に総務省総合通信基盤局長として約10年ぶりに通信行政に返り咲いてからは、寡占化が一層進んでいた携帯電話市場の問題に加え、仮想化やソフトウエア技術の進展でゆらぎつつある規制根拠の問題、米グーグル(Google)をはじめとする「GAFA」など巨大プラットフォーマーの課題を議論する「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」をスタート。施行から30年以上がすぎ、ほころびが目立ってきた電気通信事業法の総ざらいを進めた。

 菅政権の度重なる圧力によって携帯料金の引き下げにめどがつき、前述したように5G普及やBeyond 5G/6Gに向けた研究開発や国際競争力強化、公正競争環境のさらなる整備など、新たな課題への対応を進める最中だった。そんな谷脇氏の失脚に対して、業界関係者からは「今回の更迭は残念だ」という声も聞こえてくる。…