東洋経済2021/03/16 5:30/小島 好己 : 翠光法律事務所弁護士
https://toyokeizai.net/articles/-/414511

■転売目的の買い占めが問題に
臨時快速「ムーンライトながら」号といえば、指定席券を巡って数年前からいろいろと問題が噴出していた。購入が困難な一方、ネットでは高値で転売をされているということなどである。指定席券だけでなく、最近では販売数量限定の記念きっぷが発売日にはネットオークションで売りに出される、というような現象も目に付くようになった。

何らかの事情で買えなかったものをオークションで多少高くても買えるというのはありがたいときもある。しかし、明らかに当初から転売目的で仕入れたと思われる出品には大きな違和感を覚える。

2019年6月から「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下「チケット不正転売防止法」)が制定されたが、これは鉄道のきっぷに適用はないのだろうか。

利用するつもりで列車の指定席券を買ったものの、諸事情で行けなくなったということは誰にでもある。不要となった場合、本来は手数料を支払って払い戻すべきなのかもしれないが、譲渡すること自体は禁じられない。購入した鉄道のきっぷを使用開始後に譲渡することはできないが(JR東日本旅客営業規則第167条1項(7)等参照)、逆に解釈すれば使用前の譲渡は禁じられていないということになる。

一方で、「指定席券の転売」に関して「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下「迷惑防止条例」)違反で検挙される者がたまにいる。

(略)

■鉄道のきっぷは対象外
一方、2019年6月に施行されたチケット不正転売防止法により、「特定興行入場券」と指定される演劇関係のチケットを不正に転売したり、不正転売の目的で譲り受けたりできないようになった。

この法律の目的は「特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資すること」にある(第1条)。

「映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせる」という興行の入場券を対象にしており、鉄道の乗車券は対象にしていない。

鉄道の乗車券や指定席券は、列車での移動のためや移動時の着席確保のためのチケットである。乗ろうと思っていた列車に乗れなくなった場合でも、他の列車、あるいはバスや飛行機など他の交通機関を利用すれば移動や着席の目的は達成できる。

一方で、コンサートのチケットは、まさにそのアーティストのそのときのコンサートに行くのでなければ意味がない。代替性があるものと、そうでないものとで扱いが異なっているということもいえるだろう。

しかし、チケット不正転売防止法が定められたのは「ほしいのに買い占められて買えない」ということを回避するということが大きな理由である。昨今隆盛を極めている観光列車は、乗ることが目的の列車であり単なる移動手段ではない。大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」などの機会に、特別に運行される希少な列車も同様である。

これらの列車はコンサートと同様に代替性に乏しい。しかも指定席ならコンサート以上に限られた席数しかない。記念きっぷも普通の入場券や乗車券と違ってやはり代替性がない。鉄道のきっぷとコンサートのチケットの扱いを画一的に峻別できるのかどうかは疑問がある。

■鉄道の世界でもしっかり網を
取引は供給者と需要者とのバランスで価格や条件が決まるし、目端が利くことは商売の才覚でもある。転売をする人は売れ残りのリスクも抱えるわけでもあるし、自由な経済活動の保障の点からも利益と不利益を考えて行う転売それ自体を一律に禁じる必要はない。

しかし、正規の問屋でも卸業者でもない者が、供給者と需要者で直接行われるはずの取引に強引に首を突っ込んで取引を歪めるのは、正当な取引を阻害するものであって需要者を食い物にするものである。自由な経済活動に対する挑戦でもある。チケット不正転売防止法が「国民の消費生活の安定に寄与」するというなら、適正な価格で鉄道の旅を楽しむことも「心豊かな国民生活の実現」のためには重要である。

(以下リンク先で)